おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ドリトル先生     (20世紀少年 第35回)

 ドンキーのお通夜の次は、田村”13号”マサオの出番なのだが、この野郎(失礼)は気色悪いので後回しの刑に処す。今日の話題は本筋から外れに外れて、ドリトル先生です。

 少年たちの秘密基地が神様のボーリング場建設で潰された1971年、小学校5年生だった私は、一時期、ヒュー・ロフティング著、ドリトル先生シリーズに夢中になった。残念ながら小学校の図書館には置いてなかったので、自転車で20分ほどかかる市立の図書館まで何往復もして借りて読んだ。特に、「秘密の湖」が大好きで、今でも児童文学の最高峰と信じている。


 さて、ドリトル先生の職業は何かと問われたならば、多くの人は獣医と答えるのではないだろうか。確かに、動物がたくさん出て来るし、周囲に「先生」と呼ばれているし、実際、「ドリトル」で検索すると、獣医さんのサイトが数多く出て来る。だが、間違い。先生の本職は博物学者なのだ。

 博物学。懐かしい響きだが、これも今となっては死語のウェイティング・リストに載っているのだろうか。手元の「広辞苑」第六版によると、「はくぶつ-がく【博物学】動植物や鉱物・地質などの自然物の記載や分類などを行なった総合的な学問分野。」となっている。何とまあ、「行なった」とは、過去形ではないか。許せない。


 数年前、「生物と無生物のあいだ」が大ベストセラーになった福岡伸一氏は、週刊文春の連載記事の中で(切り抜きしなかったので、記憶に頼ります)、男の子はある年齢になると、生き物が好きがグループと、機械が好きなグループに分かれるという卓見を披露なさっている。

 今は「理科離れ」が深刻だそうだから、どちらにも属さない子もいるかもしれないが、私が子供のころは、まさに福岡ハカセのご指摘どおりだった。私は典型的な生き物好きで、さらに天文が大好きだったから、博物少年と呼んでよい。他方、機械好きの男子は、プラモデルや電動式おもちゃ、車やバイク、ステレオ・コンポなどに夢中になる。

 
 作者の浦沢直樹氏は、ロボット、自動車、兵器等に関する豊かな知識と愛着からして、おそらく機械グループの方であろう。ここで詳細は書かないが、手塚治虫は博物系であると思う。鉄腕アトムは、私にはロボットには見えない。

 博物学はその名のとおり学問ではあるものの、今でも昆虫や新星の発見が多くの素人によりなされていることからも分かるように、一般人にも充分、楽しめる領域である。平安文学でいえば花鳥風月の世界であり、仏教のことばを借りれば、草木国土悉皆成仏の「草木国土」にあたる部分。


 以下、私見であるが、ドンキーは機械のグループであろう。彼は実家が貧しかったので、プラモデルも電動のおもちゃも買ってもらえなかっただけだ。

 ではなぜ、私がそう思うかというと、まず、私にとって何の魅力もなかったテクノロジーの祭典、大阪万博にあれほど行きたがっていたこと(しかも、観光や見栄ではなく、中身を求めているのだ)、そして何より、アポロ11号の月着陸にも感動しているからである。

 私のような天文好き少年にとって、アポロ計画の「成功」は単に機械文明の進歩を象徴しているだけであって、あの美しいジンライムのようなお月さまに、土足で踏み込むとは無礼千万、今でも偉業とも何とも思っていない。

 とはいえ、生き物好きといっても、機械好きを嫌うほど心は狭くないです(実は、メカ音痴の立場からすれば、ちょっと羨ましいくらいだ)。同じ理科好き少年でも、ここまで趣味や嗜好が異なるのだから面白い。ドンキーが工業高校の教師になったのは、正しい進路選択であった。



(この稿おわり)



上野恩賜公園不忍池の蓮の花。わが国の山川草木は成仏も約束されているし、
八百万の神も宿る。 (2005年撮影)









































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