おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

よく生きる  (第1314回)

先回、二人の研究者(いずれも故人)の闘病記を読むと述べ、前回までは一人目の免疫学者、多田富雄氏著「寡黙なる巨人」の読書をしました。今回からは二人目の宗教学者、岸本英夫氏著「死を見つめる心」(講談社文庫)です。

副題に「ガンとたたかった十年間」とあります。長くすさまじいガンとの格闘でした。実際には、小康状態や再発を繰り返す起伏のある病状だったようです。1964年に亡くなり、本書は単行本として出版されたのち文庫本になり、私の蔵書は第38刷。ロング・セラーです。


今回の標題「よく生きる」は本書の冒頭の章「わが死生観」に出てくる決意の言葉です。前掲多田書にも「もっとよく生きる」という言葉が出てきて、よく似た境地にたどり着いたのだなと思いました。お二人とも東大教授ですから、ソクラテスの「善く生きる」をご存じだったろうと思います。

一方、多田氏は免疫学者ですから、文中に体調の変化やリハビリ活動がよく出てるという傾向があるのに対して、岸本氏は宗教学者ですから、「生死観」という用語が示すように、理論的、哲学的な表現がよく出てきます。


拙ブログの「老いを見つめる」というカテゴリー名は、自分で考え出したつもりでしたが、このたび再読しつつ、この本の題名「死を見つめる心」から無意識に影響を受けたのかもしれないと思いました。

次回にもう少し詳しく発病の経緯を書きますが、病名を先に挙げると本書によれば、悪性の「黒色腫」(メラノーマ)という皮膚がんの一種でした。子供のころ観ていたアニメ「巨人の星」に出てくる「みな」さんの命を奪いました。国立がん研究センターのサイトに情報があります。

悪性黒色腫(メラノーマ) | 希少がんセンター


診断の結果、著者はいきなり医師から、実質的に「余命半年」余りという厳しい宣告を受けます。ちょっと言い回しが不明瞭な宣告のようですが、駐在中のアメリカで、医師に命の保証は半年ならできるという趣旨のことを言われています。

最初の手術は成功だったようで、その後はガンが消えたかと思うほどに良くなったときもあったそうですが、そのたびに再発します。私は余命宣告を受けたことがありません。きっと余命半年はあまりに短くて辛いですが、こういう十年も別の意味で辛いに違いありません。


お二人が「よく生きた」ことに異論はありません。それどころか感嘆しました。先述のように多田氏は介護保険制度に不公平があると執筆活動を通じて主張し、国に制度変更を認めさせました。

岸本氏は闘病中に東大図書館の館長という要職を引き受け、在任中に図書館の大規模改修の事業を完遂させました。よく生きる方法は人それぞれですから、これらの書物はマニュアルにはなりませんが、同じような苦悩に臨んだとき、励ましや決意のきっかけにはなると考えています。


(つづく)


谷中霊園の散歩道  (2026年4月6日撮影)


































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