おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

強い男に (20世紀少年 第536回)

 さすがにこの歳になると、早朝に目が覚めてもう眠れないということが時々ある。寝床で悶々としているのは精神衛生上、良くないので起きて散歩したり、こうしてブログを書いたりしている。

 この時期、ちょうど6時ごろに日が昇る。うちのバルコニーは南東に向かって開いているので、夕焼けは見えないけれど、晴れていると朝焼けが美しい。夜が明けてもしばらくの間、スカイツリーの光輪は時計回りに回転しながら、ヘリコプターなどがぶつかって来ないように警戒を怠らない。


 第16集の27ページ目。投降したゲンジ一派の男に向かって、地球防衛軍の隊長らしき者は部下に対し、「レーザー銃かまえぇ」と命令している。ここまでぐらいは他の気の荒い治安部隊でも、やりかねないことかもしれない。だが、男がこっちは丸腰だと言ったのにもかかわらず、隊長は構わず「撃てえ!!」と命じた。

 20世紀においては、”ともだち”の「絶交」命令があってこそ初めてなされた人殺しであった。西暦の終わりごろには、万丈目や高須や山さんが絶交の許可を与えているが、それでも連中は円卓会議に座るだけの地位にある筆頭格の幹部であった。ともだち暦3年、敵は問答無用で殺してよいことになっているらしい。しかし、本当に宇宙人だと信じているのか??


 ”ともだち”一派のテクノロジーについて、ヴァーチャル・アトラクションはなかなか精巧にできているようだが、血の大みそかのロボットのお粗末さには、考案者のケンヂもオッチョも怒り狂っており、そのケンヂがもう一つカンカラに絵を入れて保存したほど大事に思っていたらしい「レザーぢゅう」も無残な代物であった。

 レーザー銃は1997年に神様が調べた時点でも試作品だったのだが、20年近くたったこの日も、光線は曲がるやら出ないやらで、一つも命中しなかった。というより、射手の近くでひん曲がっているので、標的よりも危ない目に遭っている。ゲンジ一派の男は、お前らのレーザー銃なんてオモチャみたいなもんなんだと酷評している。


 昔のオモチャの名誉のために申し添えれば、銀玉鉄砲も水鉄砲も、もう少しまともに前にまっすぐ飛んだ。それはともかく、その次に男は「”ともだち”にだまされているだけ...」と投降者にしては強気すぎることを言ったばかりに、気の短い隊長は拳銃の一撃で射殺してしまった。相手は武器も持たず無抵抗。殺人である。

 物陰でこれを見ていたサナエは、これまで冷静に”ともだち”の施政を批判してきたのだが、これには感情を抑えきれず「許せない。何もしていないのに...」と泣きながら怒り、飛び出そうとするのをカツオが必死に押しとどめている。自分を助けようとした人が、目の前で殺されたらどんな気持ちだろうか...。その悲しみはカンナにならば伝わるだろう。


 地球防衛軍は「死体処理」をして去ったらしい。姉弟は気を取り直したようで、再び地下鉄跡地を歩き出している。だが、旧都営新宿線に向かう分かれ道の地点でサナエの足が止まった。カツオは教会ならあっちだと言うのだが、サナエは「あんた、一人で行って」と、とんでもないことを言い出してカツオを驚かせている。

 アケボノバシに行くのなら、自分も一緒に行くと弟。あんたは、教会に行ってハルク・ホーガンの助けを呼びに行けと姉。地下道に一人残されてはかなわない。カツオは泣いて抵抗するものの、姉は頑固であった。この日、カツオは二人の人間に叱咤激励されているのだが、両者は同じような説得材料を使っている。強い男になりたくないのかと。


 あんた、いつも雷神山のように強くなるんだって言ってたでしょと、カツオは姉に痛い所を突かれた。さらに、こんなところでメソメソしていたら雷神山になれるわけないとサナエは厳しい。かつて男の子は泣くなと育てられて、我らは滅多に泣けない大人になってしまった。女の子は怒るなと育てられたので、女の涙は怖いの何の。

 自分は氷の女王にメッセージを伝えるとサナエは言った。彼女は男の遺言を背負ったのだ。「ま...まかしとけ!!」とカツオは、つい言ってしまった。もはやカツオの瞳に涙は浮かんでいない。「そういうのを成長っていうんだよ」と神様が見たら言うだろう。

 かくて、オッチョが強引に姉弟に課した使命は、姉が弟に丸投げした格好になった。走り出した幼い弟の背中に向かってサナエが手向けた言葉は、そのまま第16集第2話のタイトルになっている。「しっかり、カツオ」。二人が遅れれば遅れるほど、死者が増えるだろう。サナエも駆けた。



(この稿おわり)




朝焼け (当日撮影)




























































































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