おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

進駐軍 (20世紀少年 第802回)

 もう40年以上も前にコミックスで読んだきりの「巨人の星」の冒頭場面、ジャイアンツの監督、川上哲治魔送球の非を鳴らして自ら引退に追い込んだ元同僚の星一徹の様子を伺いに、彼の自宅を夜になってそっと訪れる。一徹父ちゃんは相変わらず例の丸い卓袱台で酒におぼれている。

 傍らの飛雄馬少年は父が命ずる過酷な訓練を始めた。野球のボールを壁に向かって投げる。白球は木造家屋の節穴から外に抜け、屋外の立木の幹に跳ね返って反対側から節穴を抜けて飛雄馬の手に戻る。川上監督は木の幹が長年のキャッチボールの相手を務めさせられて凹んでいるのを見て、明日の巨人軍の栄光を思い描きながら帰路につく。


 今の首相が東京オリンピックを「ごりん」と発音するのが気に入らない。ともあれ最初の東京オリンピックの直前、当時の日本は大慌てで先進国風のお化粧をするために、会場や新幹線や高速道路の急ごしらえをした。

 夜を徹して土木建築の突貫工事が続く中、父一徹は好きな酒を断ち、成長著しい飛雄馬の高校進学のため学費を稼ぐべく、日夜、土方仕事に汗を流し始める。飛雄馬はその背中を見ながら甲子園を目指す。その当時も、彼が巨人の星となってからも、栄光の巨人軍は天下無敵の強さを誇った。合掌。

 
 上巻の67ページ目で場面が切り替わり、”ともだち”3年に戻る。もしかしたら、時代はすでに西暦に戻っているかもしれない。2018年ごろかな。上空を舞うヘリコプターの腹に「UN」と大書してある。路上を走る戦車軍も同様だ。ユナイテッド・ネイションズ。歩行者の一人が国連軍と呼んでいる。PKFかな?

 ヘリやタンクからは、日本国民や東京都民に対し、「皆さんは開放されました」などのアナウンスが流れている。解放したのはヨシツネやユキジやオッチョだと思うのだが、いいとこ取りは駄目。国連軍は盛んに「秩序ある行動をとってください」と叫んでいる。どう見ても人々の歩みは秩序立っている。緊急時の日本の庶民に秩序を強制するなど百年早い。


 この騒々しい国連軍を見ながら、おじさんたちは国連などまだあったのかとか、世界は今どうなっているのかとか、それぞれ疑問を口にする。その点、次代を担う子供たちは天真爛漫で、数代前の先祖のひそみに倣い、ギブ・ミー・チョコレートでお菓子をせしめているのであった。

 群衆の中にカツオ一家もいる。カツオはチョコを欲しがっているが、母ちゃんに「バカ言ってんじゃないよ」と3年目の浮気のような言われ方をしている。姉のサナエはこれからどんな音楽も聴けると嬉しそうだ。ケンヂさんの音楽もじゃんじゃん、かけるそうだ。あればっかりで飽きないのかなあ...。


 カツオは依然として食欲に支配されており、それならビフテキも食べられると祖父ちゃんに話を振った。だが祖父ちゃんはそれどころではなく、「でかいツラしおって、進駐軍め」と怒りに燃えており、いつの日か力道山の空手チョップで叩きのめしてやると天に誓った。血圧が上がるよ。カツオは力道山を知らず、雷神山だろと訂正している。

 私の一族は田舎の産なので、チョコレートはもらえなかったし、逆に進駐軍の被害にも遭わなかったようだ。戦後の東京にいた人たちが書いた本など読んでいると、すれ違いざま米兵に理由もなくぶん殴られたなどということは珍しくもなかったらしい。戦争指導者は「平和に対する罪」で罰せられ、一部米兵の傍若無人ぶりは今も変わらない。ところでカツオの父ちゃんが見えないがどうした。酔いつぶれたままだろうか。


 同じころ、その国連軍の総司令部では、新GHQの幹部らしき男が「心から感謝の言葉を贈ります」と神妙に述べ、「あなたがいなければ、今のような平和は訪れませんでした。ありがとうございます。あなたは真の英雄です、ケンヂさん。」と頭を下げている。

 その執務机の反対側の椅子に腰かけている真の英雄ケンヂは、実にだらしのない姿勢と服装で「別に俺はそんなんじゃねえよ」と横柄に答えている。相手は意に介さず、調査は進んでいてゲンジ一派のリーダーからも事情聴取したという。「ヨシツネ、ちゃんとしゃべれたか?」と幼稚園児扱いでケンヂが訊いている。


 相手も容赦なく、「とてもシャイな方です。とてもリーダーとは思えない。」と正直に応じた。さて、日本人は「shy」という英単語を、余り悪い意味で使わないようであり、控えめとか慎ましいと同様の意味合いで「シャイ」を用いることが多い。

 本家イギリスの事情は知らないが、アメリカで「shy」はネガティブな響きしかないとネイティブに聞いた。臆病とか気が小さいというような語感らしい。だから、アメリカでは日本人的な意味でシャイを使わない方が良い。あの国では威張らないのが悪徳らしいのだ。この私でさえ英語で現地採用の同僚と議論すると攻撃的になった。

 
 期待通りの反応が返ってきて、ケンヂは嬉しそうに「ふふ」と言って頭をかいている。相手はヨシツネさんがリーダーだったから、多くの血が流れずに済んだと言う。「その通り。よくわかってんじゃん。」と語るケンヂの顔つきは少年時代の彼そのままだ。この会話を聞いたら、ヨシツネ隊長は何と言うだろう。どうせ僕はリーダーには向かないんだと言って泣くかな。

 ともだち府の無血開城の日、ヨシツネが口にした言葉は「何もするな」という無茶な宣戦布告と、「ありがとう」という謝辞のみであった。されど彼がただ一人で敵に立ち向かったことを忘れてはならない。やっぱり隊長なのだ。ついでにいうと、ケンヂもオッチョもユキジも、みんな一人で戦うのが大好きであり、彼らは連係プレーができないらしい。関係ある人まで巻き込まないでくれらしい。



(この稿おわり)





夕刻、このタワーのあたりで王貞治星飛雄馬を自転車の補助席に載せて走った。 
(2013年10月16日撮影)














 私の彼は内気
 ちょっと可愛いんです
 そこが魅力なんです

            「内気なあいつ」 キャンディーズ

 





























































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