おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

のろしが上がったぞ     (20世紀少年 第149回)

 2000年12月21日、第5巻の67ページ。地下水道で、「よげんの書」を読んでいるケンヂのもとに、外で情報収集活動を行っている仲間が順次、帰ってくる。最初はモンちゃんで、友民党大会と万丈目の周囲を見張っていたのだが、ともだちとの接触はなかった。

 外出できないケンヂはモンちゃんに、「申し訳ない。クタクタだろう」と声を掛けているのだが、モンちゃんはクタクタどころではなかったのだ。その話は先のこと。次はマルオが戻って来て、東京ドームの「ともだち集会」に行ってきたらしいのだが(テロの当日に、連中はロック(?)コンサートをやっていたらしい)、ともだちは居なかった。

 流石はマルオさん、肉まんの差し入れを買ってきた。3人で仲良く食べる。ケンヂの携帯電話が、地下水道なのに圏外ではないらしくて着信音が鳴った。降りしきる冷たい雨の中、彼女は一番つらい役目であろう、友民党に出入りする車をバイクで追跡している。だが今日も不首尾。

 ユキジの目には、国会議事堂の前に、傘もささずに立っているオッチョが映る。彼は友民党議員の出入りを監視しているらしい。乗っていくかとユキジは誘うが、オッチョは手ぶりで断る。冷たい断り方だと先回、描いたが、思えばここで大声を出すのは余り良くない。ユキジもオッチョも万丈目に顔が割れているのだから、いい度胸である。

 ヨシツネは熱を出して地下水道で寝込んでいる。彼が独断で双子に秘密基地の所在地を伝えたがために機動隊に蹴散らされてしまったことから、自責の念に苦しんで体調を崩してしまった。それでも外にいこうとしたらしい。彼らはこうして、ともだちの行方を捜索しているのだが、見つからない。

 最後にフクベエが帰ってくる。そう、ともだちはここに居るのだから、どこにも見つからなくて当然なのだ。そういう意味ではフクベエは行動を共にしているだけで、ケンヂ一派の活動を効果的に邪魔していることになる。さらに、地下活動の情報は一派に筒抜けになる。

 なぜならば、このオペレーションにおけるフクベエの役割は、万丈目の事務所に盗聴器を仕掛けて、この2か月間、ともだちとの連絡がるかどうかを探っているとのこのなのだが、それはそれは頻繁に連絡し合っていたにちがいない。

 もっとも、フクベエの顔をした男は、遅くとも、ともだち暦3年には二人目がいたのだから、ここにいる男が本当にフクベエ(キリコの夫)なのかどうかは分からないのだけれど。ともあれ、疲労の色が濃い彼らの会話は、97年以降、何も起きていないのに、本当にこれから一大事が発生するのかという懐疑的な方向に進む。

 ケンヂが「もう、やめよう」と絶望的な結論を出した瞬間、ついに神様が悪夢から目を覚まし、オッチョがようやく気が付いて振り向けば、国会議事堂が目の前にあり、そしてようやくケンヂも思い出した。次の瞬間、オッチョの目の前で、国会議事堂のセミの腹が大爆発を起こす。確かに、よげんの書のいうとおり、のろしは上がった。じんるいめつぼうの びょうよみがはじまったのです。


(この稿おわり)



北上川は水量豊かで、沿岸の緑も濃い。
(2011年10月4日、バスの中から撮影)