血の大みそかになぜ巨大ロボットが小学館に出現したのかは説明されていない。ともだち一派に、小学館に対する深い恨みを抱くものがいたのかもしれない。
第5巻95ページ目の同社ビルの垂れ幕は、「20世紀少年」連載中のビッグ・コミック・スピリッツの宣伝になっているが、昨日アップしたこの建物の写真を撮影した今年10月30日は、藤子・F・不二雄さんの作品の広告であった。藤子氏は間もなく、この作品に仮の名で登場するのを待とう。
第5巻第6話の題名は「さいしゅうかい」、第7話は「さいかい」である。第7話の主人公カンナは、別に誰かと「再会」するわけでもないので、「再開」であろう。物語は巨大ロボットの出現で一旦、終わるのだ。その第6話の冒頭に、「物体は移動を始めています」という警察や自衛隊らしき通信が入っている。
続いて「白山通りから靖国通りに入り、現在、市ヶ谷方面へ...」ところで連絡が途絶えた。報告者は靖国通りで被災したのだろうか。白山通りをそのまま直進すれば水道橋に出るのだが、巨大ロボットは神保町の交差点で左折している。岩波ホールのある角です。
私がここを訪れたときは、ちょうど神田の古本市の最中で、しかも日曜日とあって大変なにぎわいであった。巨大ロボットの移動経路を究明するという崇高な使命がなければ、古本屋巡りをした挙句、当日用意された金と時間と体力の全てを失ったに違いない。
巨大ロボットは靖国通りに入った理由は、後述するが、最後に新宿南口で「太陽の塔の偽物」と出くわす必要があったため、新宿方面への最短距離を取ったのだろう。そこまではよい。だが、あの図体で十字路を直角に曲がれるのだろうかという疑問が湧く。
第8巻に出てくるが、9ページ目でオッチョが漫画家角田に説明しているところによると、巨大ロボットの足は、実際はキャタピラであった。戦車やブルドーザーのようなものだが、ただし、これら車両と異なり、両脚を交互に動かせるので、移動の原理はローラースケートに近い。
ただでさえ道いっぱいの横幅があるのに、こういう不便な足さばきで、はたして交差点をうまく曲がれるのかと思うのだが、106ページ目の絵によると、ちゃんと左折しているので工夫があるのだろう。しかし、まだ疑問が残る。靖国通りを市ヶ谷に向けて東進すると、極めて厄介なことに、専大前の交差点を過ぎたところに、首都高5号線の高架がある。
靖国通りはこの高架の下をくぐっているのだが、どうみても高架の高さは10メートルもあるまい(下左の写真)。同じことは、そのすぐ東側にある靖国神社と田安門の間にある歩道橋にも言える(下右の写真)。どちらも、巨大ロボットの身長より、はるかに低いはずだ。
一般に、目の前にハードルがあるときに、その先に進むためには、(1)上を乗り越える、(2)下を潜り抜ける、(3)右か左に迂回する、(4)ハードルを倒して進むという四つの手段があろう。身長の殆どが丸い胴体である巨大ロボットにとって、(2)のベリーダンス風の解決策は不可能である。
ロボットは短足だから、(1)も不可能に近い。空を飛ぶか、脅威のジャンプ力があれば別だが、まさか敷島教授は本当に、空を飛べるように作ったのであろうか? 首都高の場合、(3)と(4)は、いずれもあの頑丈な高速道路を破壊しなければならない。
しかし、巨大ロボットの本体が鋼鉄製ならばともかく、第8巻の9ページ目でケンヂが「まるで飛行船」、オッチョが「ただの気球」と表現しているように、大きな布の袋に窒素ガスを詰めただけの風船であった。これで体当たりしても、首都高池袋線に勝てるはずがない。逆に壊れる(はぜる)だけで、当初の目的を果たし得なくなってしまう。
かくして、この問題は私にとって未解決のままである。別に作品の「あらさがし」をしているのではない。自分が見つけたことを自慢したいだけです。しかも、問題は高さだけではない。横幅についての疑問も残っている。これについては以下次号。
(この稿おわり)
桜の名所、千鳥ヶ淵も靖国通り沿いにある。(2011年10月30日撮影)