地面に落ちたオッチョが、一人はしごを登ってゆくケンヂを見上げている姿に続いて第8巻の第2話「ロボット」が始まる。1969年に戻り、秘密基地の中で創成期のメンバー4人に加えて、ユキジが少年マガジンを読んでいる。ケンヂが、TVアニメ「鉄腕アトム」の主題歌を歌いながら、巨大ロボットの絵を描いている。
ここでようやく「原子力きょだいロボット」の仕組みも纏まってきた。オッチョはリモコンをかっこよく書いてくれと注文を付けており、ケンヂは乗って動かすようにもしたいとのことで、「潜水艦シービュー号」みたいな操縦席をつけようと言っています。
私には「潜水艦シービュー号」というのは初耳であった。ネットで調べると、まず今もってプラモデルで売られていることが分かり、ちょうどこのころ(1969年頃)テレビ東京でやっていたドラマらしい。どおりで東京生まれの浦沢さんが知っていて、田舎でとれた私が知らない訳だ。
ドラマの製作者は、私がカリフォルニアにいたころ、カリフォルニアで死んだアーウィン・アレン。この人は、私が幼少のころ夢中になって観ていた「タイムトンネル」や「宇宙家族ロビンソン」、中学生になって映画館で観た「ポセイドン・アドベンチャー」や「タワーリング・インフェルノ」のプロデューサーである。宇宙家族ロビンソンには、ドクター・スミスという卑劣な男が出てきて、私は彼が好きであった。
ただし、ケンヂが描き上げた巨大ロボットの絵には、どう見ても、リモコンも操縦席も描かれていない。そして他の少年たちから、「やっぱり鉄人28号のマネッコだ」とからかわれている。ケンヂは鉄人しか描けないので、彼に任せれば、そういうことになる。ともあれ、ケンヂの「俺達が空想したロボット」も、その成り立ちからしてマネッコなので、あまり人のことは言えないのである。
第4巻第9話の”ともだち一派”による「ロボット会議」では、敷島教授が、その巨大さでは二足歩行などとても無理なので、車輪、キャタピラーをつけるしかないと発言している。それに対して出席者の一人から、「それではただのブルドーザーじゃないか」という文句が出ている。
血の大みそかにケンヂがみたものは、まさしくキャタピラー駆動であり、「ブルドーザーの運転席みたいなとこ」であった。その運転席に辿り着いたケンヂは、一人の男の後ろ姿を見て、防毒マスクを脱ぐ。相手がマスクをしていないので、ここは安全と思ったのだろうか。
ところが拳銃を突きつけた頭が下に転がり落ち、これはマネキンであることが分かった。鼻があるべきところに「ケンヂ」と書いてある。眉毛と口元は、親父譲りのケンヂの顔の部品とそっくりだ。これを見てケンヂは最後の判断を下す。「ぶっとばす」とつぶやいて、ダイナマイトを取り出した。
そして、「ドンキー...フクベエ... 姉ちゃん... これで終わりだからな...。」と独り言。やはり彼は、地球の平和とか正義とかいう概念のために頑張ってきたのではなくて、悪人どものせいで人生を狂わされた身の回りの人々のために闘ってきたのだ。そしてトランシーバーでオッチョにトラックから離れるように伝えてから、「ダイナマイトをセットした。三分後に爆発する」と全員に連絡した。
ところで、なぜ3分後なのだろうか。結果的に、3分後はちょうど20世紀が終わり21世紀が始まる瞬間と重なるという劇的な効果を挙げているが、ケンヂはそれを目的に3分にしたのではあるまい。3分間というとウルトラマンとかカップヌードルとか、いろいろあるが、関係あるまい。
この通信の直後、ケンヂは再び防毒マスクをかぶろうとしているので、間に合えば逃げるつもりでいたらしい。安心できる距離まで逃げるには、3分間では短すぎると思うのだが、彼としては、一刻も早く細菌の噴射を止めるというのが最大の目的であったろう。ぎりぎりの妥協点が3分だったのだ。ところがその時、モニターが動き出して、避難どころではなくなった。
(この稿おわり)
近所の柿。近所には正岡子規も住んでいました。
柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺 子規
この句をローマ字で書いてみると、前半は固い柿の木のように「K」音が響く。
後半は柔らかな「N」音と流れるような「R」音が交互にあらわれる。
(2011年11月17日撮影)