おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

鈴蘭灯 (20世紀少年 第323回)

 今回も本筋とは関係ないです。先日、新聞を読んでいたら「鈴蘭灯」と書いて、「すずらんとう」と読ませる言葉があることをこの歳になって初めて知りました。そうだったのかと感心したことが二点あって、一つはスズランはランのような花が鈴なりに咲くから鈴蘭と呼ばれること、もうひとつは、商店街などの街灯に使われる「あれ」が鈴蘭灯という名を持っていたこと。

 ケンヂたちの生まれ育った町には商店街があるので、鈴蘭灯がたくさん描かれている。いろんな種類がある。遠藤酒店そばの鈴蘭灯は第2巻の156ページに描かれている電燈三つの形式で、キリコと一緒に諸星さんの最後の後ろ姿を見送っている。


 ケンヂのコンビニ時代は、付け替えられたのか交差している路地のものなのか分からないが、四角い電燈二つのもので、第3巻の火災消失の直前、「言っとくけど、この犬は凶暴だよ」と叫んでいるユキジの頭上にある。丸い電燈二つの鈴蘭灯は、第1巻の26ページ目、ケンヂの車がファンシーショップ・まるおの前を通り過ぎる場面に写っている。

 実際、街中を歩いていると、似たようなデザインの鈴蘭灯がたくさんあるので、見た目が同じでも同じ街とは限らない。第5巻の87ページ、血の大みそかの夕暮れ時に、「静かな大みそかだな」とケンヂが呟きながら歩く商店街の鈴蘭灯と、その日に録音されたかもしれない音楽を聴きながらカンナが歩く同巻120ページ目の街路を見下ろす鈴蘭灯はそっくりだが、違う道だろう。


 しかし、どうやら同じ商店街ではないかと言ってもよいくらい似ている絵が二つある。一つは、第20巻の66ページ目の右上にある。前後の絵と筋から、これはケロヨンの蕎麦屋が面している道であることが分かる。この場面は2000年12月31日の夜のことだ。

 もう一つは、第5巻の46ページ目の上段右。季節は2000年の秋、ナガシマ巨人が優勝した次の日あたりに、ケンヂとカンナは〇龍ラーメンでチャーシューメンを食べ、そのあとでカンナが「右よし。左よし。」と安全確認しているのがこの絵。いずれも丸い三つの鈴蘭灯で、デザインが同じばかりか、その下にあるパチンコ店の外装まで同じ。

 
 難点は、わずか2か月の時差なのに周囲の立て看板が若干、異なることだが、背景のビル群の形状まで似ているので、同じ道だと考えて差し支えあるまい。同じだとしたら、どういう意味を持つか。

 ケロヨンの店が引っ越したとは聞いていない。商店街で先代から続く古い蕎麦屋が別の街に移転して開業するというのは、皆無ではないだろうが証拠がない以上、ケロヨンが生まれ育った商店街だと考えよう。


 そうすると、2000年の秋、お尋ね者のケンヂは大胆不敵にも、自分も生まれ育った町で外食をしていたことになる。それに共通点は、鈴蘭灯だけではない。ここから先は当初から気になっていたケンヂやケロヨンが住んでいた町はどこにあったのかという問題に関わる。ケロヨンは、血の大みそかの日、その理由は後に語るが、熱海行きの最終を目指して、夜道を急いでいた。

 そこに巨大ロボットから逃げてくる人々の群れが殺到している。最終電車に乗ろうと焦っている以上、ケロヨンは自宅最寄の駅まで歩いているはずで、つまり、彼の自宅兼店舗は、巨大ロボットの通過点から、それほど遠く離れてはいないと考えても不自然ではない。


 一方、ケンヂとカンナがラーメンを味わった〇龍も、店主が同じ日に細菌兵器で亡くなった以上、たぶん巨大ロボットの通り道の近くに店があったのだ。ケンヂとカンナは食事のあと一番街商店街まで歩いているのだが、2000年の大みそかに、この商店街から走り去ったバイクの二人組は、間もなく巨大ロボットに正対してしまい死んだ。

 2000年の巨大ロボットは、前にしつこく追跡したとおり、一ツ橋の小学館ビルに出没して白山通りを北上し、左折して靖国通りに入り市ヶ谷方面に向かった。そして新宿に至り、駅のそばで爆発している。この経路は、東京の行政区分でいうと千代田区と新宿区だけである。


 千代田区説は前にも一度、話題にした。ケンヂがコンビニ店長姿でカンナを背負いながら、お茶ノ水工科大学を訪れているので、彼の生活圏から御茶ノ水が近いのではないかと思ったのだ。それに、第13巻では、実況中継によると狙撃された”ともだち”は、蛯天堂大学病院という妙な名前の病院に担ぎ込まれている。

 撃たれた場所は、フクベエやヤマネやオッチョが卒業した小学校。蛯天堂というのはたぶん順天堂とエビ天を引っかけただけだろうが、順天堂の大学と病院も千代田区御茶ノ水にある。でも、この程度では何となく弱い感じがする。それに私はこの辺をよく歩くのだが、御茶ノ水から二つ隣の駅がある飯田橋を渡れば、もう新宿区なのだ。


 千代田区の北のほうは、明治初年から開発が進んだ先進地域の一つで、古くから政府機関や大学が多い。このため神田の古本屋街が発達したと聞いている。1960年代の後半に、原っぱやジャリ穴がある土地としては、新宿区のほうがお似合いのような気がする。まだまだ答えは出ないのだが、検討に値すると思ったので検討しました。以下、次号。


(この稿おわり)



スズラン(2012年4月10日撮影)


  


鈴蘭灯(左:尾竹橋通り、右:日暮里中央通り)