おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

"20th Century Boy"    (20世紀少年 第8回)

 バンド名のT.レックスは知っていたが、この曲の名はこの漫画を読むまで知らなかった。今年に入って映画のDVDで聴いたが、かつて聴いた覚えもない。

 第1巻の10ページ目に、この曲のシングル・レコードのジャケットが描かれている。左上に「日本で録音された」と書いてあるのは、ちょっとした驚きだ。日本で録音したライブ・アルバムは、ディープ・パープルの名作ほか枚挙にいとまがないが、シングルだけというのは記憶にない。

 続いて「連続No.1ヒット!!」とあるから、彼らの全盛時の作品か。どこかで渋谷陽一氏が、勢いに乗っていたころのT.レックスは、本当に色気があったと書いてみえたのを覚えているが、そのころの作品なのかな。


 さらに、キャッチコピーとして、「へヴィーなリフのソリッド・ゴールド・ロックン・ロール」とあるな。「ソリッド・ゴールド」とは、一体いかなるものであろうか。

 なお、本来の英語表記は、口頭で「ロックンロール」と発音しても、活字にするときは「Rock and Roll」と略さず書くのが正当であるとアメリカ人に聞いた覚えがある。

 ともあれ、リフは確かに良い。何度聴いてもリフが良い作品は名曲である。「サティスファクション」、「胸一杯の愛を」、「いとしのレイラ」。この曲も50歳にして私の名曲入りだ。浦沢さんには感謝します。


 「〈歌と演奏〉T.レックス」というのにも時代を感じる。作詞・作曲・歌唱はマーク・ボランなのだが記載がない。その下に「制作 トニー・ヴィスコンティ」とある。映画監督のヴィスコンティなら知っているが、トニーさんには詳しくない。英米では作詞・作曲者よりも、プロデューサーの方が格上だと聞いたことがある。

 右下に「¥500」と書いてある。これはかなり高い。私が中学生のとき生まれて初めて自分で買ったシングル・レコードは、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」だが、やはり500円だった記憶がある。今と単純に比べても高いし、当時の物価からしたら更に高価だ。しかり、昔のレコードは消費財ではなく、有形固定資産であった。大切に拭いて仕舞っておいたものである。


 ネットでは英語の歌詞を調べることができる。この曲の歌詞は、実に他愛のないものだが、それはともかく冒頭の2行目ともいうべき箇所の「Everybody says it's just like」に続く言葉が、「Rock and Roll」になっているものと、「Robin Hood」になっているものに分かれていて、どちらが正しいのか、Q&Aのスレッドまで立っている。

 英文のネットで検索しても両方あるから、ネイティヴでも聴き取り辛いのか? どちらか間違った歌詞カードでも、出回っているのであろうか。動画サイトで聴く限り(リスニングには全く自信がないが)、ロビン・フッドの方が正しそうな感じがする。


 それよりも、大英帝国出身のロック・バンドは、ビートルズはもちろんローリング・ストーンズまでもが、シェイクスピアの伝統を背負って、かなり生真面目に歌詞で脚韻を踏んでいるのを忘れてはならない。

 この作品の最初のフレーズの終わりは、「friends say it's good」で間違いあるまい。そうあれば、ここで韻をそろえるためには「Robin Hood」でなくてはならないと思います。

 ちなみに、歌詞文中で繰り返される「toy」と「boy」も、脚韻を使った言葉の遊びだろう。カタカナでおもちゃを「トイ」と記すのであれば、発音記号に従う限り、少年は「ボイ」でなくてはならん。なお、漫画の英語タイトルは、複数の「boys」になっている。ともだちだけが20世紀少年ではないし、逆に、彼を簡単に排除することも難しい。

 また、定冠詞の「the」もついていないから、一般的な英文法の考え方に従えば、「20世紀少年」は登場人物たちだけではなく、20世紀に少年時代を過ごした全ての誰もが含まれ得るということだ。


 最後に、この長編漫画の悪役の名「ともだち」は、服部少年が気弱な少年たちに自分の本名を呼ばせず、かわりに「友達」と呼ばせたのに由来すると考えるのが穏当であろう。別に異論はないのだが、T.レックスの原曲の歌詞が「Friends」で始まるのは奇怪な偶然である。



(この稿おわり)



20th Century Dolls (2011年3月10日撮影)
























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