おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

カンナとケンヂの登場     (20世紀少年 第9回)

 そろそろ物語の中身に入ろう。その前に第1章の冒頭の展開について端的に繰り返すと、まず、第四中学校で鳴り響いた「20世紀少年」、国連に招かれた友民党、第二の巨大ロボットに驚愕するカンナという、予告編のような導入部分を経て、1997年のケンヂの店が出てくる。

 これらの予告編は、それぞれ上手く繋がっている。まず、「何も変わらなかった20世紀の一日」と「無事に迎えた21世紀」が対比され、次に国連のステージに歩み寄る友民党幹部の「ズン、ズン」という足音は、次の場面でカンナの熟睡をさえぎるロボットの跫に重なり、それを凝視するカンナの赤ん坊のころの泣き声で次頁からストーリーが始まるという、映画的な幕開けとなっている。カンナがケンヂよりも先に登場しているというのも面白い。


 1997年の最初の3ページは、ケンヂたちが経営するコンビニエンス・ストアだけを舞台に、彼と母親の言い争いの中身によって、この家族の商売や、突然カンナを残して出て行ったキリコのことなど家庭内のゴタゴタまで、くどい説明調に陥ることなく、ごく自然に紹介されている。浦沢さんは達者な脚本家でもある。

 さらに、ケンヂとお母ちゃんの会話の中に、この時すでに進行しつつある、世界の終わりを招きかねない事態に関連するキー・ワードが二つ含まれている。一つは、言うまでもなくお母ちゃんが音読している新聞で報道されている「アフリカで新しい伝染病」、すなわち「体中の血がなくなっちゃう」病気である。クラバラクワバラは、もはや死語に近いであろう。


 もう一つのキーワードは「万引き」。ケンヂは、コンビニの店長としての資質のなさについて、本社の営業担当に繰り返し責められるのだが、握り飯の在庫管理をきちんとやっているのだから、少なくとも一店員としては、そう悪くもないと思うな。万引き犯がお母ちゃんだといって彼は怒り、怒り返されている。

 のちに彼は、第2巻第10章において、神様にそそのかされたホームレスに弁当を持ち逃げされて執拗に追いかけており、店長として当たり前ではあるが、万引きに厳しい。それはそれとして、彼が自ら犯した万引きに、半世紀も苦しめられ続けたことを、私たちは物語の終盤の重大な場面で知ることになる。


 これだけでも、この長編漫画は、終幕までの構成がかなり出来上がった後に書き始められたのだろうという推測が成り立つ。さて、この19ページから21ページまでについては、もう少し書きたいことがあるので次稿に続きます。


(この稿おわり)


ご近所の紫陽花が花盛り。梅雨時の楽しみです。 (2011年6月18日撮影)







































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