おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

さよならチャック・ベリー (第1093回)

 
 去秋ちょうど映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の感想文など書いていたころに、御年90になったチャック・ベリーが新譜を出したというニュースが届き、それを印刷して持っている。ジジイになっても、ロックをやってるすごい奴らというのがケンヂの目指すところであり、その頂点にいたのがこの人だった。

 その去年の報道とは、2016年10月18日の新聞ロサンゼルス・タイムズで、同紙によるとニュー・アルバムの名は、この上なくシンプルで「Chuck」。バック・バンドは「The Blueberry Hill Band」という。


 このバンド名「ブルーベリーが丘」は、故郷セントルイスにある彼の自宅がたつ場所で、曲はその自宅で録音された。バンドは彼の二人の息子がギターとハモニカを担当し、アルバムは愛妻に捧げられたものという極めて家庭的な作品になった。バンド名は「親父が付けた」そうだ。

 発売にあたって、本人から奥様への献辞が公表されており、「ダーリン、もう歳をとった。このアルバムも作るのに、えらく時間がかかった。これでようやく引退できそうだ。」というものだ。その前の作品が1979年だそうだから、37年ぶりか。確かに、長い。


 でも、彼は若さを取り戻した。これを創り上げるために、彼は引退しなかったのだ。せっかくだから、もっとゆっくりしてほしかったが、ひと冬を越えるのが精いっぱいだったか。訃報を聞いて、ストーンズの「ブラウン・シュガー」の歌詞を眺めてみた。「Johnny B. Goode」の歌詞もみた。

 公民権運動より、ずっと昔の曲だ。「アンクルトムの小屋」を思い出した。きっと幾多の後輩が「これを演りたい」という衝動のようなもので、無数のカバーやパロディを作った。その傑出した曲作りとギター・ワークで、時代を切り開いていったのだ。白人のロック、ストーンズビートルズブルース・スプリングスティーンも彼を追いかけた。


 「20世紀少年」はロック・スターの名を拝借した人物名が少なくないが、チャックというと万丈目か...。これは偶然だろうな、幾らなんでも。その万丈目の売り口上の切り札がNASAだった。この男は、他者のご威光を借りないと生きていけない。

 そのNASAが、当時、十代で天文少年だった私の関心を引き続けたプロジェクト「ボイジャー」を、ようやく実現させたのが1977年のこと。高校生だった。ボイジャーの宇宙船は、今なお深宇宙に向けて、気の長い旅を続けているはずだ。


 その事業目的は、地球に「知的生物」がいて、こういう「文明」があるという、今にして思えば赤面ものの自慢話を、宇宙ロケットに詰め込んで放り投げた。これといった行き先は無いし、帰ってこなくてもよいという無計画なミッションである。

 これに金属製のレコードも載せた。絵図や音声が収められているらしい。人類の男女も絵になっているが(裸の正面図)、これを地球上の生物の代表に選んでいいのか。神様だって念のため、他種も一揃い、ノアの船に乗せたのに。


 音声のほうは自然界の音や、言語に加えて、音楽も入れた。アナログだったはずだ。バッハやベートーベンやストラビンスキーが選ばれたが、歌唱も必要だと思ったのか、ただ一曲のみ、ロック・アンド・ロール・ミュージックが人類代表になった。「Johnny B. Goode」である。

 このジョニーの名字は、スペルからして、「グード」と延ばすべきなんじゃないかと思い、チャック・ベリーの歌声と、ついでに映画まで観て、マイケル・J・フォックスの歌まで確認した。やはり音を延ばしている。ただし、前のフレーズの最後に来る「wood」と脚韻を踏んでいるはずなんだよな。


 訃報は Facebook で拡散した。情報源は、セントルイス市の聖チャールズ州の警察がFBにアカウントを開いており、本名および「もっとよく知られているチャック・ベリー」を名乗る人物の病死を、「悲しみを込めて」と書き添えて発表した。

 子供のころ強かった大リーグの球団、セントルイス・カージナルスが、シーズン・オフに来日したのを覚えている。真っ赤な井手達。セントルイスっ子は、親しみをこめて「our boys」と呼ぶ。星飛雄馬の宿敵、アームストロング・オズマも、カージナルスの選手だったのだ。


 あれで英語も、なかなか奥が深い。例えば、「Now I'm ready to grow young again.」ときたら、どう訳そう。「若返る準備ができました」では、美容整形かサプリの宣伝みたいで気迫に欠ける。でも俺は負けない、闘うと主人公は言う。では、「Send More Chuck Berry.」はどうか。

 アメリカの名物バラエティ番組、「サタデイ・ナイト・ライブ」は、ボイジャーのメッセージが、歌心のある異星人に届くであろうとの確信の下、かくのごとき返信がくると予言した。「もっと、チャック・ベリーを聴かせろ」。ご本人は間に合わなかったが、録音ならサイバーネット空間に宝の山を残した。




(おわり)





手向けのサクラソウ  (2017年3月10日撮影)




 There stood a log cabin made of earth and wood
 where lived a country boy named Johnny B. Goode
 who never ever learned to read or write so well
 but he could play the guitar just like a ringing a bell.

 土壁と木材でできた丸太小屋が そこにある
 田舎者の小僧が住んでいる ジョニー・B・グッドという奴
 読み書きは習ったものの 上手くない
 だが奴は 鐘を鳴らすように ギターを弾ける

      ”Johnny B. Goode”   Chuck Berry


 Now I'm ready to grow young again
 and hear your sister's voice calling us home
 across the open yard.
 Well maybe we can cut someplace of our own
 with these drums and these guitars.

 さあ、これからもう一度 若くなってみせる
 原っぱの向こうから お前の姉さんが呼ぶ声がする
 もう うちに帰っておいで
 今の俺達の何かを 削ぎ落すことができるかもしれない
 この俺達のドラムスとギターがあれば


      ”No Surrender”  Bruce Springsteen




















































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