ネットで時々、「ネタバレ注意」という警告を見ます。あまり好きな言葉ではありません。文学にしろ映画にしろ、感想文を書くに当り、本筋に触れずに書くのは私には無理です。もちろんミステリーのように、結末を勝手に書いてはいかないジャンルもあります。クリスティの「アクロイド殺し」の犯人はこれから読む人に伝えてはなりませぬ。
しかしミステリーも含め、良い作品はその結末を知ってもなお、二度三度と味わえるものであり、私のように感想文を書くのが好きな者にとっては、ネタバレ当然なのです。そういうわけで今回はネタそのものを含め、何度目かの読書中である重松清「その日のまえに」の次の短編に進む前に、巻末にある「文庫本のためのあとがき」を題材にします。
少し前に触れたように、この短編集(と私が読んでいる文庫本)は、前半4編と後半3編に分かれます。前半は個々に独立した短編として雑誌に掲載されました。後半はこれから述べる出来事を経て、それぞれ書き直され、さらに前半と後半を関連付ける改変がなされています。上記のあとがきには、その経緯が記されています。
あとがきは「このままだと早死にするぞ、と恩師に言われた」と始まります。その夜、作者は外で飲んでいて、店を変えようと電話したところ、その恩師が先客で来ていて、二人の仲を知っている店の人から、恩師の先生が待っているから早く来てと言われます。作者は十年間ほど、その恩師に何等かの不義理をしていたそうで、なかなか気が進まず最初の店でウイスキーの杯を重ねました。
ようやく次の店にゆくと、いつもはすでに帰る時間だったのに、恩師は待ってくれていました。その店で、おそらく飲みすぎをたしなめられたものか、冒頭の「早死にするぞ」と言われたようです。日付が変わるまで飲んで帰るとき、作者は恩師への恩返しとお詫びがてら、先生の喜寿のお祝いは自分が司会をすると約束して復縁しました。お前の葬式のほうが先になっちまうぞと先生はまだ水割りを飲んでいました。その続きです。
それが僕の見た先生の最後の笑顔だった。
先生は僕が店を出た直後、倒れた。
そのまま不帰の人となってしまった。
私が興味をひかれたのは、これが「文庫本のため」のあとがきと題されている点です。確かめたわけではありませんが、単行本にはこの内容のあとがきがなかったのでしょう。あとがきの文中に、恩師の急死について「自分のせいで...というセンチメンタルで傲慢な筋書きだけはつくりたくないし、その資格もない」という心境が記されています。この一件を単行本で紹介したら、それだけで評判と売り上げが増すかもしれないのを案じたのかもしれません。
あとがきの続きには、先生の死後一週間して、「締切の迫った短いお話」の執筆に取り組んだそうです。それが後半3編の最後にある「その日のあとで」です。先生の死により、「その日のあとで」は微妙にトーンが変わったそうです。さらに単行本化にあたり、収録する予定だった短編の幾つかを、書き換えたり順序を入れ替えたり、あるものは外したりして、そういう意味では一篇の長編小説ともいえる内容になりました。
(おわり)

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