鎮魂の八月、今年は殊の外、暑い。疲弊した国民に敗戦が伝わった日は、好天のところが多かったようで、かしましい蝉の声が聞こる映画などをよくみる。
その一年前、私の伯父らは、愚劣な作戦でマリアナ諸島に送り出された。今に至るも伯父の遺骨も遺品も目撃者も見つからないから行方不明だ。伯父だけではなく、この時期以降の戦没者は、大半が同様だろう。
サイパン、グアム、テニアンは1944年8月までに米軍の占領するところとなり、特に伯父の戦死地と陸軍の記録に残るテニアン島では、北部のノース・フィールド飛行場が活用されて、ここから飛び立ったB29が空襲を重ね、原子爆弾を落とした。
今回のタイトルは、書籍の名前。まず、東日本大震災のあった年、2011年の夏にNHKスペシャル「原爆投下 活かされなかった極秘情報」としてTVで放映され(DVDを買いました)、そのあと新潮社から単行本と、私の書棚にもある文庫本も出た。本のほうが詳しいが、TV番組も証言者が登場していて説得力がある。
この書籍を批判する者の中には、証言者が大本営の外部の尉官・兵士や民間人のレベルに過ぎず、証拠も不足で、信憑性が低いなどと申す。国家秘密(しかも醜聞)に関し、生き残った将校や参謀らが都合の悪い発言などするはずがない。彼らの命令で、当時の資料の殆どは燃やされてしまった。
それにこの作品は、学術書ではない。ジャーナリズムは情報源を秘匿するのが通常だが、むしろ本作は、黙っていられない人たちが実名で登場する。これを妄想とし黙殺するか、それとも真正面から受け止めるかどうかは、読者の判断による。
内容については、ぜひ読んでいただきたいので詳しく触れないが、要は3月10日の東京大空襲も、アメリカが原爆を開発中であることも、8月6日の朝に正体不明の敵機が硫黄島上空を経由して西日本に向かったのも、8月9日に日本軍の航空隊に攻撃命令が出なかったのも、陸海軍は事前に情報を得ていながら、無数に出た犠牲者を救う手立てなど何もしなかったということだ。
米軍の作戦計画も極めて悪辣である。そんなわけで誰が読んでも、楽しい読書にはならないです。なお、NHKのオンライン・デマンドに、本番組のアーカイブがある。ただし、同局に限らず、追加の報道があったとは聞いていない。本の題どおり、黙殺された極秘情報になっている。毎年この時期に放映するだけの価値はあるのに。
(おわり)
テニアン島のノース・フィールド飛行場跡地にて、原爆搭載地点。
(2017年1月15日、長男撮影)
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