おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

マス大山 【前半】 (20世紀少年 第606回)

 二人して焼き魚を美味い美味いと食いながら、将平君は余ほどケンヂの身の上が気になるらしく、「今までどこにいたんですか?」と訊いている。相手の返事は「フラフラしてた」と質問にきちんと答えていないため、今一度、「どこを?」と尋ねたところ、「日本中」というスケールの大きな回答があった。

 しかも、「一度は東京にも行った」と言うので将平君もびっくり。「だけど、すぐに逃げた。ゾッとしてな...」と心なしかケンヂは元気がない。触れられたくない思い出があるようで、「これ焼けてんぞ、食え」と、いったん相手の関心をそらしている。


 ケンヂが東京に一度だけというと、ダミアン吉田の記憶では2015年、私の理解では2014年、まだ西暦があり東京が壁に囲まれていなかったうちに、ケンヂは故郷に戻ったのだ。そしてダミアンに「いいこと」を教え、しかし”ともだち”の支配する東京では逃げ出したほどの恐怖を覚えた。何を見て、どう感じたのか、具体的には描かれていない。

 「それでどうしたんですか?」と将平君も訊く力を持っている。しばしうつむいたままだったケンヂは重たい口を開いて、「北海道の山の中で三日三晩...」と言いかけてから突然、話を変えて「お前、知っているか? マス大山。」と問い返してきた。またしても将平君は昭和の話題に付いていけない。


 マス大山大山倍達。空手の達人。極真会館創始者アメリカなど海外でも異種格闘技戦の試合で勝利を重ね、ゴッド・ハンドと呼ばれた。素手で闘牛と戦い、撲殺したというから凄い。なお、「男おいどん」の主人公の名字は「大山」で、下宿館のバーサンの名は「マス」だが偶然であろう。

 子供のころ雑誌か新聞で、ユキジの麻薬犬の通称にもなったブルース・リーのカンフーについて、空手の専門家らしき人が、あれは見せ物に近く、本気で闘えば千葉真一のほうが強いだろうと書いていたのを覚えている。あの「キーハンター」のおにいちゃんはそんなに強いのかと思った。千葉さんは大山さんの弟子である。


 カリフォルニア駐在時代、アメリカ人に「日本人はみんなカラテを使えるのか?」と真剣な表情で質問されたことがある。「No」と即答したところ、相手はガッカリした様子であった。どうせなら、「あまり俺達を怒らせないほうがいいぜ」とでも言っておけばよかった。

 軟弱者の私は格闘技に無縁で、小学校の校庭にあった土俵で盛んに相撲をとったことと、高校の体育の授業で剣道を少しやった程度。柔道はオリンピック等のテレビ観戦でたくさん観ているが、空手となると試合を見たことすらない。そんな私でも子供のころから大山倍達や、柔道の嘉納治五郎、猪熊功などの名を知っていたのはなぜだろうか。


 最大の情報源は、当時の週刊少年漫画や小学館学年誌において、プロレスの話題がよく載ったことは前に触れたが、野球や格闘技の特集も多かったのであった。さらに大山倍達の場合は、数々のエピソードを連載漫画「空手バカ一代」で読んだ。梶原一騎作、つのだじろう画。つのださんは、たぶん角田氏の名のモデル。

 これらの漫画情報等によると、真偽のほどは知らないが、ここでケンヂが語っているように山中で修行するにあたり、挫折して里に逃げ戻らないよう自ら片方の眉をそり落としたり、熊を倒したり、頭で石を割ったりと、とにかく物凄いのであった。


 また、大山倍達は十円玉を曲げてみせたともいう。念力やインチキではなくて、自分の指でだ。これは見てみたかったな。そういえば、つのださんの作品に「泣くな十円」というのもあって、彼の泣きながら走る姿が好きであった。

 なお、十円玉を曲げると前科者になるおそれがある。「貨幣損傷等取締法」第一条、「貨幣は、これを損傷し又は鋳つぶしてはならない」。また第三条、「第1項又は前項の規定に違反した者は、これを1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する」。長くなりましたので後半に続きます。



(この終わり)




東京は世界で一番、雪に弱い首都かもしれない。 
(自宅より、2013年1月14日撮影)



















































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