おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

「よげんの書」再読 【前半】 (20世紀少年 第340回)

 第5巻第4話の「のろし」に、「よげんの書」を読むケンヂの姿が出てくる。警察による一斉摘発で地下鉄の廃駅を追い出されて、下水道沿いに引っ越したばかりのころで、2000年12月21日のことである。あと十日ほどで21世紀が来る。

 どう戦ったらよいのかを考えるため、頼みの綱の「よげんの書」を再読しているのだ。この場面に出てくる「よげんの書」の文章および絵と違うものなどは他の箇所に出てこないと思うので、「よげんの書」は第5巻のこれで全文と考えてよかろう。「さいきん」はその第1ページに早速、出てくる。

 悪の組織は最初に、細菌兵器でロンドンとサンフランシスコを襲う。次のページでは、バンパクで有名な大阪に細菌をばらまく。そして、2000年の大晦日、東京に原子力巨大ロボットが現れ、細菌をばら撒きながら破壊の限りを尽くす。


 前回、触れたとおり、山根の言っていることが正しければ、彼の「友達」が読んだ時点では、「よげんの書」に巨大ロボットは描かれていたものの、まだ細菌兵器は登場していなかったことになる。そしてショーグンによると、彼は山根の意見をこっそり取り入れて、「よげんの書」を執筆中の仲間に伝えた。

 オッチョのこの回想に該当するシーンは、第2巻の第11話に出てくる。悪の組織がどうやって攻めてくるかという企画会議。マルオは水爆を提案するのだが、オッチョは街がめちゃめちゃに壊れてしまうという理由で却下。そこで細菌兵器を代替案として出した。第12巻のショーグンの思い出話とそっくり同じ内容。


 第2巻には続きがあって、ケンヂが即座に細菌兵器案を採択した主な理由は、姉ちゃんからチフス菌とかコレラ菌とか赤痢菌といった怖い細菌の話を聞いていたからである。巡る因果は糸車。山根たちの発想をオッチョがマネて、ケンヂがマネのマネをした遠因は、姉キリコの微生物好きにあったということだ。

 さらに第2巻では細菌兵器が用いられる場所として、最初が東京では時期尚早ということでロンドンとサンフランシスコが選ばれ、第3巻では「細菌攻撃ばかりじゃ能がない」という理由で、兵器には爆弾が加わり、攻撃対象は空港が選ばれた。このあたりは、少年たちのアイデアの展開が、ページの順序にも、”ともだち”が起こした事件の時系列にも沿っている。


 巨大ロボットはいつ描かれたのか。ロボットの絵自体は1997年、第1巻の第9話、モンちゃんが思い出して掘り出した缶からの中から出て来たのが初登場。「レザーぢゅう」の絵とともに出土したのだが、これらは一枚紙に描かれたもので、後にケンヂの家の庭から出て来た「よげんの書」のスケッチブックとそっくり同じロボットの絵柄だが明らかに別々に描かれた作品である。

 それに第5巻で地下水道のケンヂが読んでいる「よげんの書」には、「ついにそのきょだいなかげは」等々、文章も書きこまれているのだが、缶カラに仕舞われた絵のほうは、第3巻の17ページ目に出てくるように、絵だけであって文章はない。では、どちらが先に描かれたのだろうか。


 スケッチブックの絵が描かれたのが1969年の秘密基地内であったことは、第8巻の25ページ目からの描写でわかる。ユキジはジャイアントロボのようなロボットが良いというのだが、マルオとヨシツネの言うとおり、結局、ケンヂは「鉄人28号のマネッコ」しか描けなかったのであった。

 これまでの流れからすると、スケッチブックの巨大ロボットの絵はページの順序のとおり細菌兵器や爆弾の後で描かれたものと考えるのが自然である。しかし、第8巻のこの場面は、それを証明するような絵や会話がないので前回からの懸案事項である、「巨大ロボットと細菌兵器がそれぞれ考案された時期の前後関係」を明らかにすることができない。


 ただし、第8巻では巨大ロボットの外見を議論しながら描いているのだから、スケッチブックが先で、缶カラの一枚紙の絵が後なのだ(秘密基地閉鎖のとき描かれて埋められたものか)。そして、「よげんの書」という題が書かれているのはスケッチブックだけに違いないので、山根の「友達」が缶カラの絵だけを見ただけで、「よげんの書」を作っていることを知り得たとは思えない。

 やはり「友達」が秘密基地で見たのは、スケッチブックなのだ。そして、そのときはまだ細菌兵器についての記載がなかったと山根は言っており、ショーグンの回想もそれと矛盾していない。

 小説にしろ漫画にしろ、結末から先に考えるということはあっても不思議ではない。結末(例えば巨大ロボット)から描き始めるというのは、ちょっと不自然だが、しょせん子供の遊び、何があっても宜しい。では、「よげんの書」を見たと山根が言う彼の「友達」とは誰か。分かりきっているが、次回に続きます。



(この稿おわり)




シャゲの花(2012年4月21日撮影)










































.