おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

都万の夏 (20世紀少年 第788 回)

 
 近年、老化現象ばかりはいかんともしがたく、歯やら老眼やら何かと不便になってきているが、最近は耳も遠くなったのだろうか。原発事故の汚染水問題などは「アウト・オブ・コントロール」だと考えていたのだが、総理大臣の発音が「アンダー・コントロール」に聞こえる。

 前回の東京オリンピックは4歳になる直前で、多くの場面を覚えているがライブで観たのか再放送で観たのか分かりようがないと以前書いた。先日、帰省したとき母に訊いてみたところ祖父と二人、テレビの前で中継を観ながら大騒ぎしていたらしい。次回は60歳になっている。孫ができていたら一緒に騒ごう。


 たかが感想文なのに、難しい議論を展開しすぎて疲れた。これまでに、(1)ケンヂはなぜウルティモマン・バッヂ事件の少年が今の”ともだち”だと気づいたのか、(2)フクベエと今の”ともだち”が双子でなくて整形の結果そっくりさんなのであれば、なぜわざわざ整形したのか、(3)なぜマスクを外すと遊びは終わりなのかという積年の諸課題を残したままです。

 今回はそれにもう一つ疑問を付け加えつつ、セットで問題先送りに処す。(4)ケンヂはなぜ生きているうちに”ともだち”のマスクを外したのか。これは多分、上の(3)と関係がありそうだな。まだある。(5)”ともだち”の顔を見て、マルオは驚いたのに、なぜケンヂは驚かなかったのか。


 謎解きは子供たちが出てくるシーンまで待とう。先に進みます。”ともだち”がリクエストした「あの歌」を、ケンヂは歌った。そして「地球の上に夜が来る、僕は今」のところで歌を止めた。もう相手が聴いていないことに気付いたのだろう。家路を急ぐこともなく”ともだち”は息絶えた。ケンヂはこの歌をもう歌わない。

 揚げ足を取るようだが、「わかる奴だけにわかるように」作った歌の一つだったはずだが、そもそも「この事実を伝えたくて」が路上ライブの目的だったのだから、本来は「わかっていない奴にもわかってもらうように」ではなかろうか。田村マサオがその代表的な成功例であり、しかも彼は「わかった」だけではなく、最終結果として”ともだち”を葬った。


 圧死した世界大統領を見下ろしながら、ケンヂは「おまえがこんなふうに死ぬとは思わなかったよ」と言った。第16集の第7話に出てきたシルエットは、その予知夢を見たらしい本人が死んだ直後に実現したみたいだ。間もなく出てくるが、少年時代から人の死に方を予知する能力があったかのようだが、自分の死に方は選べなかったようだな。

 ケンヂはもう一度、「ごめんな」と言った。現実の世界では、ついに間に合うことなく、彼のお詫びの言葉は相手に届かなかった。かつてヤマさんがチョーさんの首に注射したのと同じように(例えが良くないな)、マルオがケンヂの首根っこをポンをたたいた。


 「おまえ、こいつが誰だか知っているのか」と問うマルオに、「ケンヂは分からない」と言っている。言葉通り受け止めるのであれば、ナショナル・キッドの少年だったことは覚えているが、そのお面の下の顔が誰なのかまでは断言できないということか...。

 「わからないけど俺は...」とケンヂが言葉を濁したところで上巻の第1話は終わっている。その言葉の続きはやはり、「決着をつけにいかなくちゃ」というようなものであろう。ここで物語は第2話に入り、1960年代に戻る。正確に言うと途中からはヴァーチャル・アトラクションなのだが、最初からそうなのかどうかが私には分からない。でも楽しみだ。今日は以下、余談である。


 ここ何回か写真を載せてきたように、この夏、隠岐の島に旅行してきた。せっかく四泊もの日程を組んで、久々の旅を楽しみにしていたのに、滞在三日目に夏風邪で発熱し、そのまま宿で寝込んでお終い。一体、何しに行ったのだろうか。

 なんて後悔は私はしない。出かけた甲斐があったから。日本海は穏やかでひたすら青かった(この後、暴風雨と台風が来たのだが...)。魚料理が抜群に美味い。島後の人々は気さくだ。どう見ても他所者の私に、長年の知り合いのような話し方をなさる。観光客あつかいすら受けなかった。遠い昔の田舎町に戻ったみたいでした。


 旅先に隠岐を選んだ理由は、もともと海や島が好きとか旅費の限界とか幾つかあるが、一つには吉田拓郎が歌った「都万の秋」という歌の由来の地に行ってみたかったからだ。「襟裳岬」に出かけたときと同じ発想。作詞者も同じく岡本いさみ。

 島はイカの産地で有名だが、私が訪れた季節は少し早すぎて、漁船も海岸や河口に舫われたままで、そよ風に揺れていた。都万は静かな港町。その日、隠岐は強風注意報が発令されたが、湾内は静かだった。ほとんど人とすれ違うこともなく、しばらくそのあたりを歩き、宿に帰ることにした。その途上でちょっとした出来事があったのだが次回に譲ります。




(この稿おわり)



 イカ釣り船が帰ると小さなおかみさんたちが
 エプロン姿で防波堤を駆けてくるよ
 都万の朝は眠ったまま
 向うの浜じゃ大きなイカが手ですくえるんだよ

                  「都万の秋」 吉田拓郎




















































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