おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ともだちになってくれる? (20世紀少年 第784回)

 前にも書いたけれど、この漫画にはオリンピックが出て来ない。いろんなスポーツや万国博覧会の話題は頻出するのに、64年の東京も68年のメキシコ(ちょうど同じころ秘密基地創設)も出てこないのが、ちょっと不思議である。

 今のところは東京に住んでいる。マイナーな種目で席が空いていそうな競技があったら、ふらっと観に行ってみようかななどと考えています。生オリンピックを見たことがないから、一生に一度くらいは贅沢しよう。

 ついては2020年までに西暦が終わりませんように。現時点で最大の懸念材料は最近「東京は絶対大丈夫」と言い切った近所の放射能だな。間もなく大地震から早くも2年半。ようやく実家の除染の順番が来たと中通り出身の方から聞いた。


 上巻の14ページ目。少し離れて立っていたため危うく円盤の墜落事故に巻き込まれずに済んだマルオと氏木氏は、さっそく瓦礫(この言葉はあれ以来、意味が重くなりました)の中に入ってケンヂを探し始めている。まずは誰より彼だ。幸いケンヂは左ひざのあたりに軽傷を負った程度で済んだらしく、サダキヨの救出活動中であった。

 金属の壁のようなものの下敷きになったらしいサダキヨを引っ張り上げようとしているケンヂは、「手を貸してくれ」と近寄ってきた二人に頼んでいる。サダキヨの腹部が汚れているが、血だとしたら内臓破裂のような重傷かもしれない。さらにナショナル・キッドのお面を取ると頭部からも出血している。


 ところで、もしも円盤が”ともだち”の真上にあって真下に墜ちたならば、落下地点にいた”ともだち”とサダキヨとケンヂは、その場でペシャンコになっていた可能性がある。しかし、田村マサオの操縦するヘリコプターは横から円盤に追突した。だから円盤は斜め下に落ちた。ケンヂとサダキヨが即死を免れたのは、多分そういう物理法則のおかげだろう。

 実際、第1話の最後の絵などを見ると、どうやらサダキヨの周囲はヘリの羽根のようなものが散乱しており、円盤本体の直撃だけは受けずに済んだのではないかな。サダキヨは自分が大けがをしていることを知っており、ついては急ぎ確認しておくべき人生の重大事がある。

 まずは、「僕、いい者だったろ?」という質問。彼にとっては自問自答のFAQ。マルオがケンヂの横顔をのぞく。ケンヂは「ああ」と肯定した。この時点では”ともだち”の行方ほか事態の全体像が分からないが、そう答えるしかあるまい。”ともだち”に一人で肉弾戦をいどんだのは、サダキヨが最初で最後だ(カンナは未遂)。


 続いてサダキヨは、「僕、仲間に入れる?」と訊いた。今度はケンヂも一旦、表向きは「何、言ってんだ」と突き放したように応えたが、すぐに「おまえは俺達の仲間だ」と伝えている。先ほどサダキヨはマルオの仲間に入れてもらったばかりだが、あれはワクチン接種隊であった。

 サダキヨがいまやケンヂに頼み込むように尋ねている仲間とは、地球を救う仲間である。話のスケールが違うんだ。ケンヂの返答を聞いて安堵の表情を浮かべたサダキヨは、「ごめんね」と二回、繰り返した。何に対する謝罪なのか...。ケンヂの受難? モンちゃんの死? 大勢の犠牲者? 全部ひっくるめて誰か一人に謝るとしたら、目の前にいる男が最適だから便利だ。


 サダキヨは泣いた。私は彼が泣いた場面を思い出そうとしたのだが、今の記憶力では無理でした。あれだけ、いじめられたり裏切られたりしてきたのに、彼は胸の内かお面の内で泣くばかりで、感情を開放することすらできない少年だった。

 ところで、第16集などに出てくるように、サダキヨの人生を決定的に損なった事件は、秘密基地に無断侵入した彼が、先に無断侵入していたフクベエにやむなく「ともだちになってくれる?」と頼んでしまったことから始まったと考えていいだろう。


 私はかつて「友達」と「仲間」は微妙に意味が異なるという論陣を張ったが、第10集第9話を読み返してみると、サダキヨは友達と仲間という二つの言葉を同じ意味で使っていることが分かる。

 彼は地球上に友達が見当たらなかったので(今なら何とかブックで検索もできるんだが)、最後の最後には宇宙人に友達になってもらおうという壮大な構想を練った。


 その手段とは学校の屋上で、「アーメン、ソーメン、ヒヤソーメン」という、仮に日本語を解する宇宙人の耳に届いても彼の真意を測りかねるであろう呪文を唱え続けるという奇妙なものだった。

 当時の常識からすれば、宇宙人は必ずや空飛ぶ円盤で来てくれるはずだ。この日、確かに円盤は飛来したが、まさかサダキヨも自分の上に落っこちてくるとは思いもよらなかったであろう。


 この私も過去、一度だけ「ともだちになってください」という手紙、というよりは一枚紙のメモをいただいたことがある。しかも若い女性からであり、しからばラブレターと呼んでも差し支えあるまい。同級生の家に泊りがけで遊びに行ったときに彼の妹さんから拝受しました。私が小学校中学年だったから、彼女は低学年か幼稚園児...。ともあれ、珍しく娘さんに好かれたんだい。

 その「ともだちになってください」のメッセージの横には、彼女が懸命に描いたに違いない絵が添えられていた。私も一目瞭然で分かったのだから彼女に絵画の才能があったことはもとより、それが私の好きなものであることを見抜くとは深い洞察力の持ち主でもあった。描いてあったのはウルトラマンの頭部。

 まさか、ウルトラマンの御尊顔を知らない日本人はいないと思うが、引用したくてもこの漫画は昔のヒーローが続出するのに、なぜか慎重にウルトラマンの絵だけは避けて通っている。ウルティモマンより、ずっと人相が良い。

 その必殺技の代表格は第1集の表紙絵でケンヂとマルオとヨシツネがマネしているスぺシウム光線だが、個人的には八つ裂き光輪のファンでした。まさに地球を救う男だった。男だと思うが...。




(この稿おわり)







隠岐の島の夕暮れと落日 (2013年7月18日、19日撮影)









 ずっと友達 だが時は経ち
 変わりゆく町の中で育ち...


        ケツメイシ 「トモダチ」 これだけ見事に脚韻を踏める連中はおらん


















































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