第22集の第1話「正義を守る男」は第10話と同様、ジジババの店先で始まる。前回の続きであろう。黙って当たりくじと景品を引き換えた少年が走り去ったのち、今度は物陰で見ていた少年が店に誰もいないのを知って近づいてきた。彼の手には、はずれの紙が一枚。そして、店頭にはまだバッヂが二つ残っている。
スパイダースさんの歌を歌いながら偶然、自転車で通りかかったマルオは、ジジババから脱兎のごとく駆け出してくる子供の姿を見て「ケンヂ?」と声をかけた。ケンヂ少年は見つかって驚愕しているが、そのまま走り去った。マルオには何が何だかまだ分からない。
ケンヂには彼や私と同年代の男の子ならたいてい持っていたであろう軽い盗癖がある。かつては正月に道端に落ちていたお年玉を拾い上げ、マルオと警官の前から走り去っている。
漫画には万引きの話題も多く、早くも第1集でケンヂが母ちゃんを万引き扱いしている場面、神様たちがケンヂのコンビニから万引きをした事件、長髪の人殺しが見ている前でケンヂが万引きを止めさせた話とエピソードは豊富にある。ケンヂは自分を褒める長髪に、父ちゃんが酒屋の万引きに苦労していて、自分も子供の頃から犯人を追いかけていたんでと照れ笑いしている。
それならなぜ今回、彼は手を出してしまったのだろう。子供にしてみればバッヂは単なるラッキーな子へのおまけであって、お金を払う対象ではないと感じたか。バッヂ代も仕入れ値に含まれていることまで小学生は考えないだろうのだけれど、ルール違反であることに間違いはない。ケンヂ一生の不覚であった。
”ともだち”歴3年になっても、お年玉事件、バッヂ事件と同様、ケンヂに声をかける役を仰せつかったマルオであった。ケロヨンはまだ気づいておらず「ケンヂって?」と反応が遅れている。そのケロヨンたちに自分が運んでいたワクチンを渡して予防接種を頼み込み、マルオは走り出しながらロボットが動き出したことに気付いている。
急にロボットが動いたのにはケンヂも驚いており、自分の名を呼ぶマルオの声にも気づかなかったらしい。だが、続いて「あのトラックで追おう」というマルオの提案は耳に届いた。氏木氏はユキジとオッチョの顔は知っているが、マルオとは初対面。「ケンヂさん、この人は?」と訊くと、「マルオ。幼馴染だ。」と簡潔な答えがあった。商店街の寄り合いでもある。付き合いは長い。
マルオはケンヂが生きていたのを目の当たりにして涙ぐんだが、直後に「痛っ」と叫んでいる。運転席の尻の下に何か固いものがあったのだ。彼が手に取ってみると、それは例の宇宙特捜隊のバッヂであった。マルオは懐かしんでいるが、ケンヂの表情は硬い。そのときカー・ラジオから「乗った?」と声がした。
続いて、「言う通りにきて。とりあえず、まっすぐそこ出て。」と、よくまあ一方的に喋くるトラックだな。氏木氏は気持ち悪がっているが、ケンヂは「行こう」と言い、マルオは「おお!」と返す。ここは血の大みそかの再現である。だが、これからの展開は全く違ったものになった。
(この稿おわり)
ハイビスカス一輪 (2013年6月19日撮影)
また一つ、ずるくなった
当分、照れ笑いが続く
泉谷しげる 「春夏秋冬」
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