おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

あたり (20世紀少年 第767回)

 第22集第10話のタイトルは「正義の始まり」。主な登場人物が円盤とロボットに向かって、吸い寄せられるように集まっていく。最初のページは過去のシーンで、懐かしのジジババの店から始まる。1969年の夏。

 だがこの場面は、正義の始まりと解してよいものかどうか。滅多に出ないはずの「あたり」と書かれた紙を持った少年が一人、「くださいなー」と呼んでいるのだがババの返事がない。トイレか? これで人類の歴史が変わったのだ。


 あたり券が出たら宇宙特捜隊のバッヂがもらえる「ウルティモマン」のふうせんガムが描かれている。忍者ハットリ君にしろ鉄人28号にしろ、他のヒーローや悪党はみんな昔の名前で出ているのに、なぜウルトラマンではないのだろうか。著作権か何かの問題なのだろうか。悪を招いたので遠慮したか。それならハットリ君のお面だって同じです。

 少年のとった行動も褒められたものではない。あたりクジを箱に入れて、ババには黙ってバッヂを手に取り、胸のポケットに付けてそのまま走り去った。四角い吹き出しが入る。「宇宙特捜隊バッヂ...それは正義の証...」。これは電信柱の陰で一部始終を見ていたらしいケンヂ少年の心の中のつぶやきであろうか。


 いや、たぶん大人になって今そこにある危機に向かっているケンヂの回想だろう。回想は続く。「あれが始まりだった。あれがもう一つの始まりだった。行かなくちゃ」とケンヂは走る。もう一つの始まりとはどういうことか。

 たぶん最初の始まりとは、おそらく「よげんの書」だろう。もう一つの始まりについて、すでにケンヂには心当たりというよりも確信に近いものがあるようだ。なかなか表舞台に登場しようとしない幼馴染が...。

 
 ユキジは、”ともだち”府内にロボットと円盤のコントロール・ルームもあると見たのだろう、高須幹事長の部屋に入った。高須はモニターでも見ていたのか、部下からの連絡でも入っていたのか、驚きも振り向きもせず「いい眺めよ」火事場見物の最中であった。一緒に見ないかと誘われたユキジだが、「もう終わりよ」とここでも繰り返した。

 しかし今度は相手が違う。「とんでもない、いま始まったところよ」と高須は反論し、ほらと指さす彼方の空をユキジが見れば、円盤が2機、飛び立っている。とめなさいとユキジはいう。私には無理と高須はいう。そして高須はユキジには理解できないことを言い出した。


 ”ともだち”によれば悪いのは全部ケンヂであり、「ケンヂに正義の証を持つ資格はない」のだそうだ。自分にはあるのか。続いて今度は下の方を指さして、”ともだち”はあそこと高須は訊かれてもいないことを伝えた。火災現場にいるらしい。次のページでは放火犯のロボットが歩いている。

 ページが前後するが、164ページ目に逃げ惑う人々に驚くケロヨンやマルオが出てくる。ケロヨンは血の大みそかでも同じように逃げてくる人々の群れに巻き込まれている。そのワクチンはどこに持っていくのとサダキヨが訊いた。ケロヨンの答えは、こんな騒ぎでは仲間がどこにいるか...というものだった。

 うん、まずは仲間が生きなさいというのがキリコの教訓であった。火の手が上がる方向を見ながら「あそこだ」とマルオが断言している。さすが、血の大みそかに参戦した戦歴がモノをいうのだ。行こうとサダキヨは言った。4人は避難民と逆方向に走り出す。


 マルオら4人がたどり着いた火の元は、新宿の”ともだち”平和祈念館であった。これ、まだ残っていたのか。平和祈念館という名は確かに爆心地の跡だが、広島や長崎に失礼であろう。かつて神様とコイズミがここで出会い、カンナがケンヂおじさんの歌を蝶野刑事に聴かせた。そして、どこに呼ばれているか分かっているとケンヂは考えている。

 あたり。マルオは平和記念館前の広場で、ケンヂともう一人の男が立ち尽くしたまま同じ方向をにらんでいるのを見た。ケンヂと氏木氏の前に立ちはだかっているのは、空飛ぶ円盤に守られた巨大ロボット。そいつは生意気にも日本語をしゃべり、「ケンヂ君、遊びましょ」と言った。


 もう一人、ロボットの行き先を、すなわちケンヂも行くであろう場所を言い当てたのが意識朦朧のカンナであった。しかし彼女は「新宿へ」と言ってしばらく黙ったため、同行のマライアさんはカンナの自宅、アパート常盤荘に行きたがっていると即断した。

 そして当初目的の病院行きを断念し、うちに戻ってパンツも替えたいよねという話になってしまった。マライアさんは、新宿となるとフェスティバル会場から離れてしまうと反対するドライバーの背中を座席越しに蹴飛ばし、「新宿の常盤荘! とっとと行く!」と命令した。善意によるものだが、これがまた一段と事態をややこしくしたのだった。



(この稿おわり)





ふぐ屋さんの店先にて。こちらは、あたると大変。 (2013年6月18日撮影)










おまけ




























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