おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

学問のすゝめ  【後半】  (第1358回)

 前回の続き。さて先週は、「公益」と「公共の秩序」についての私見を述べたが、一方で、改憲勢力が必死に抹殺しようとしている「公共の福祉」については、さすが福の字をその名に負う男、福沢先生のご威光を借りることとし、「学問のすゝめ」の文中にぴったりの記述があるので引用する。

 (前略) ただ自由自在とのみ唱えて分限を知らざればわがまま放蕩に陥ること多し。すなわちその分限とは、天の道理に基づき人の情に従い、他人の妨げをなさずしてわが一身の自由を達することなり。自由とわがままとの界(さかい)は、他人の妨げをなすとなさざるとの間にあり。


 公共の福祉に反するとは、他人の妨げをなすことをいう。他人の妨げをなそうと切望する権力者にとって、上記は邪魔なこと、この上ない道理である。福祉とは他人を援けるの意であろう。公共の福祉のためならば、国民の権利や自由を制限できるというのが、いまの憲法の発想である。その出所は、GHQもよく知っていたはずの合衆国憲法にある。

 ホワイトハウスのウェブ・サイトを見よう。こんな機会でもなければ縁がないな。その中に「憲法」というページがある。こういうところが、いかにも人工近代国家アメリカ合衆国の面目躍如たるところだ。
https://www.whitehouse.gov/1600/constitution


 "We the People of the United States, in Order to form a more perfect Union, establish Justice, ensure domestic Tranquility, provide for the common defence, promote the general Welfare, and secure the Blessings of Liberty to ourselves and our Posterity, do ordain and establish this Constitution for the United States of America."

 と書いてある。これは、合衆国憲法の前文の一部なのだ。国民が達成すべき事柄として、正義(ここでは社会秩序の意味だろう)、国内の治安、国防、(ここで懸案の)福祉一般、さらに我と我らの子孫のために自由の恩恵を守り抜くこと、そして最後に、憲法を規定し確定する。その憲法の役割や位置づけ、特徴は次のごとし。


 The Constitution of the United States of America is the supreme law of the United States. Empowered with the sovereign authority of the people by the framers and the consent of the legislatures of the states, it is the source of all government powers, and also provides important limitations on the government that protect the fundamental rights of United States citizens.

 概略すなわち、最高法規主権在民、各州の同意、あらゆる国家権力の法源、そして、アメリカ合衆国民の基本的権利を保護するため、政府に重要な制限を課す。その意味するところ、鮮明にして断固たるものである。これらが、我が国の六法全書の筆頭にある法に流入して久しい。その今後の扱いについて、私はいま学問をしているのだ。


 次はアメリカ上院のサイトに移る。米国憲法の全文が載っている。これをみると、当初の英語版の日本国憲法案に、項の番号がなかった事情が分かる。本家の憲法にも無いのだ。その第8条第1項に当たる条項に、「福祉(welfare)」が登場する。
http://www.senate.gov/civics/constitution_item/constitution.htm

 The Congress shall have Power To lay and collect Taxes, Duties, Imposts and Excises, to pay the Debts and provide for the common Defence and general Welfare of the United States; but all Duties, Imposts and Excises shall be uniform throughout the United States; (後略)


 ここでは、議会が持つ「徴税権」の根拠などを示している。日本国憲法にはない。国民が納税の義務を負っているだけだ。上記の英文によれば、徴取した税金の使途は、国債の返済、国防、福祉。歳出の内訳は、これしか書いていない。主語が議会になっているのは、予算の決定権があるからだ。もう一回、もっときちんと、「押し付けて」もらったほうが良くはないか。

 福沢諭吉に戻って終わろう。「政府はその政(まつりごと)を施すに易く、諸民はその支配を受けて苦しみなきよう、互いにその所を得てともに全国の太平を護らんとするの一事のみ。今余輩の勧むる学問ももっぱらこの一事をもって趣旨とせり」。以上は、私の都合のみで抜き書きをしているので、ぜひ全文を読んでいただきたいです。





(おわり)






栃尾温泉郷にて  (2016年9月24日撮影)















































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