おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

役者     (20世紀少年 第177回)

 私が十代後半のころ、「嗚呼!! 花の応援団」という人気漫画があった。映画化もされた。ど下品という酷評もあったが、この上なくパワフルであり、人情味もあり、主人公の青田赤道は見合いを勧められて(相手は怪獣のような娘だった)、「その儀は固くお断り..」などと小声で返事をするような愛嬌もあった。

 ネットで「花の応援団」で検索すると、この漫画や映画の他に、どうやら被災地に花を贈るという心やさしいボランティア活動をしている「花の応援団」という団体もいらっしゃるらしい。この品格の標高差は、すごいとしか言いようがない。

 
 漫画のほうの「花の応援団」は、幾つかの流行語を生んだ。そのうちの一つが或る先輩の決め台詞、「役者やのう」であった。すでに我々は、忍者ハットリくんのお面に向かって、悔し涙を流してみせる役者フクベエの芸を堪能したばかりであるが、今回の主演男優賞は万丈目です。

 第7巻の208ページ目、巨大ロボットの風船頭に、放射能マークが描かれているとの報告を受け、うろたえている国家危機管理委員会の部屋に、友民党の党首、万丈目が姿を現す。

 閣僚たちから、この非常時に何をやっていた、連立与党としての自覚が足りないと非難されているところをみると、国会議事堂の爆破事件で多数の国会議員が死亡したものの、与党第一党は引き続き、その位置を守っているらしい。これに対して万丈目は余裕綽々、「ご安心ください、総理。やっと間に合いました。」と言って平然としておる。


 この続きは第8巻の16ページ目にあり、ちょうどケンヂたちが巨大ロボットに登ろうとしているのと同時進行だ。万丈目は、巨大ロボットがまき散らしている細菌に効くワクチンの準備が終わったと報告している。彼によると、1997年の大阪ほかで発生した細菌事件以後、”ともだち”は研究所を設立してワクチンの開発に勤しんできたのだそうだ。これ自体は、嘘ではないな。

 この研究所はタイ国にあると万丈目は語っているのだが、その真偽の程は不明である。しかし、開発を受注した製薬会社の名前は、2014年にオッチョがつきとめている。大福堂製薬株式会社。第11巻の216ページ目に出てくる。同社の戸倉という重役とオッチョの会話の中に、2000年、同社の細菌研究所がワクチンを製造したとある。


 この会話の詳細は、第12巻のところで触れるとして、万丈目によれば、全ては”ともだち”の指示により、ワクチンは臨床実験も終了、人体への副作用もなく、すでに日本を含め世界中に輸送中であるらしい。そこに万丈目あての電話があって、バリケードの準備もできたという。

 そのバリケードは、例の鉄人28号風の鉄仮面をあしらった、偽の太陽の塔みたいなものだが、これで巨大ロボットの行く手を阻む計画なのだという。それに”ともだち”が乗りこんだと聞いて、「自らの身を呈してまで、世界を救おうと...」と絶句して涙をこらえている万丈目。役者揃いやのう。

 そのころ甲州街道では、バイクで先回りをしたオッチョが、マルオとケンヂが乗ったトラックに追いついた。20世紀の最後の戦いが始まろうとしている。戦場は、その20世紀に大発展したと世界史に残るであろう日本経済の象徴のごとき新宿の高層ビル街であった。


(この稿おわり)



これは、コウテイダリアだろうか? (2011年11月17日撮影)