おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

国会法 第六十八条の三  (第1374回)

 国会法や国民投票のことについては、後段(第96条)に憲法改正の条項が出てくるので、その際に話題にするつもりでいるのですが、どうしても、これだけは緊急事態の箇所で触れておきたいというものがある。

 今回は、改正草案の緊急事態条項を、全部は引用しない。その替わり、今回のテーマとする部分だけ転記します。第98条の第1項案。

(緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

 これによると、想定されている緊急事態とは、次の四点である。とはいえ、この4)はここで想像しても切りが無いし、冗長になりそうなので、今日は1)から3)まで。どうせまた「法律で定める」場合には、最後に「その他」とか「等」が付いてくるだろうし。

1) 我が国に対する外部からの武力攻撃
2) 内乱等による社会秩序の混乱
3) 地震等による大規模な自然災害
4) その他の法律で定める緊急事態


 1)は現在の憲法ができてから、知る限り前例はないが、例えば半島からミサイルが飛んでくるような、今そこにある危機のごときものだろう。「自衛隊」の本来業務だというのが私の理解であるが、1)ではPK0は読めないし、「我が国に対する」だから集団的自衛権も駄目。4)に入れる?

 2)は内乱だけなら、鳥羽伏見の戦いとか、西南の役とか実例があるが、「等」は何だ。社会秩序の混乱というと、本来は衆議院の解散も含まれるべきだが、もう慣れっこ。これも切りがないのだ。かつての学生運動や、サリン事件でも発動するのだろうか。


 3)が、実績という意味では現実の自衛隊の出番であり、治安当局のみなさんも併せ、そのご活躍とご苦心に国民一同、深く感謝している次第です。確かに一般的な言葉遣いとしては、まさに3)も緊急事態なのだが、この改正草案の適用対象とする必要はあるか。

 阪神・淡路大震災のときも、東日本大震災のときも、行政対応に混乱があったのを覚えている。だが、私の知る限り、地方自治体や法律家におかれては、今の法制度や行政慣行を見直せば十分、対応可能とのご意見であるはずだ。つまり、改正草案が目論む立法府の機能停止は、不必要であり、危険ですらある。


 危険とは物騒に聞こえるかもしれないが、例えば、この緊急事態が宣言されると予算は「使いたい放題」になりかねない。この件は後の回に触れます。2)に関連しても、関東大震災のあとのデマによる騒乱のようなことが繰り返されたとき、治安維持法のようなものが復活しかねない。警察国家の登場と相成る。

 そして、何より1)だ。もしも、いますぐ起きたら、これは現状の自衛隊の体制と関連法令で対処することになる。周知のとおり、相手が一発、撃って来るまでは手を出せない。だが、改正草案の国防軍は、わざわざ自衛隊と異なる自衛軍組織を憲法に明記するのだから、もっと積極的な機能を切望しているはずである。


 いい例が、同じ「国防」の看板を持つ軍事組織として、シリアに59発の巡航ミサイルを撃ち込んだ同盟国アメリカの国防省。何とも中途半端な数だと思ったが、60発撃ったところ、一つだけ失敗したと正直に言っている。どこに落ちたのだろう。上手い鉄砲も数撃ちゃ外れるのだ。これでも「国防」だ。

 もう少し分かりやすい例をあと一つ。ナチス時代のドイツ軍が、和名では「国防軍」である。ここでも「ナチスの真似」か。名目上、侵略が平和と人道に対する罪になったので、軍隊を持つためには「国防」か「内治」しか大義名分がなくなってきた。内戦状態でないなら、国防しかない。


 そういう意味では、改正草案も筋は通っており、軍隊を持ちたいし、名前は国防軍にするしかないし、「我が国に対する外部からの武力攻撃」は一般に緊急事態には違いないし、国防軍の最高指揮官が内閣総理大臣だから、緊急事態宣言のあとは、国会に事後報告して、緊急なのだから多数決で押し切る。

 続いて、今日のタイトルである国会法の「第六十八条の三」を見ます。接続の関係で、その前の条も一緒に引用する。
第六章の二 日本国憲法の改正の発議

第六十八条の二  議員が日本国憲法 の改正案(以下「憲法改正案」という。)の原案(以下「憲法改正原案」という。)を発議するには、第五十六条第一項の規定にかかわらず、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する。
第六十八条の三  前条の憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。


 本日申し上げたいことは、上記の青字の太字に尽きます。仮に、改正草案または類似の改正案が出てきたとき、国防軍案と緊急事態宣言案は、「内容において関連する事項」以外の何物でもない。別々に発議するようなら、それだけで反対します。

 つまり例えば、「自然災害が起きてからでは遅いので、九条は時間がかかりそうだから、先に緊急事態宣言だけ盛り込もう」というような姿勢は拒みます。理由は前回と本稿で充分、書いた。ちなみに、事務手続き的に、国民投票はどうなるかというと、総務省のサイトには、こうある。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/kokumin_touhyou/tohyou.html


 つまり「区分して行う」場合、投票用紙がその区分の数だけ、用意されるらしい。大変な投票数にならないか心配になってきた。もっとも、憲法の前文も書き換えるとなると、戦争放棄はもちろん、国民の権利や義務の各条も全部、関連する事項になるので、一回で済んでしまうかもしれない。これはこれで怖いが。

 それより、考え過ぎならいいが、国会法は普通の一つの法律であるから、この政権下で幾つも起きたように、好き放題、新法づくりや法改正をしようと思えばできる。これは与党内で、正面切って反旗を翻す人たちが出ないと、歯止めが効かない。派閥の時代が懐かしくなるとは。



(おわり)



湧き水。口直し。 
(2017年7月21日撮影)



























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