おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

緊急事態  (第1373回)

 前にも書いたことを繰り返します。この条項が通ったら、それだけで日本国の緊急事態だ。第九条は議論の余地があると思っているが、これは論外。とはいえ、ここまで来たら論じない訳にもいかない。それにしても、この改正草案の新設の第九章、くどくて長い。


第九章 緊急事態

(緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
二 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
三 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
四 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
二 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
三 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
四 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。


 性格的には自分は保守なのだが、あまりに政権与党と改正草案の出来が悪いので、こうして丹念に非難しています。この程度でも安倍一族やネットでウヨウヨしている連中から見れば、私は反日サヨクなのだろう。きっと、左側からみれば反動守旧だ。

 中道を歩むのは難しい。まじめにやると政治経済社会のあらゆる個別の事柄について、自分の考えをまとめないといけない。誰のご発言か忘れてしまったが、「ことあるごとに、踏み絵を踏まないといけない」のだから疲れる。そして中庸を唱えた孔子様のように孤独を覚悟しないといけない。

 人みな孤独な現代では、仲間づくりが簡単な極右と極左に集まりやすい。そろって感情的になれるし(私からみれば街宣車も草の根市民運動も同根です)、論敵は反対側にしかいないから、喧嘩を売るのも簡単なのだ。さて、今回はまず一般論から。国立公文書館のサイトより、「国家総動員法」の解説。


戦時国家総動員基本法日中戦争の勃発を背景に、戦争遂行に必要な「人的及物的資源ヲ統制運用スル」目的で制定、朝鮮、台湾、樺太にも適用された。方針案は1937(昭和12)年11月に企画院で完成、1938(昭和13)年1月16日「爾後国民政府を対手とせず」という「近衛声明」直後の26日に法案要綱が公表された。1938(昭和13)年4月1日公布。労働、経済活動、物資の統制と運用を主とし、具体的内容は勅令による「委任立法」であったため、「非常大権を侵すもの」、「議会に白紙委任状を要求するもの」という批判もあった。各勅令の要綱を準備する担当の省庁は、内務省、商工省、大蔵省、司法省、文部省、企画院であり、内容は広範多岐にわたった。1938(昭和13)年秋以降、本法に基づく勅令が公布、1941(昭和16)年には事業の開始や解散、団体や会社の設立を命令できるように改正。これにより重要産業団体令や企業整備令が可能になった。他、主なものに賃金統制令、国民徴用令、価格等統制令、地代家賃統制令、会社経理統制令、銀行等資金運用令、株式価格統制令がある。1945(昭和20)年12月20日に廃止(法律第44号)。



 この文中に出てくる「委任立法」がキーワードなのだが、馴染みのない専門用語です。そこで拙宅にある商売道具の一つ、「法律学小辞典」(第5版、有斐閣)に教えてもらおう。

 「委任立法 法律の委任に基づいて立法府(議会)以外の機関が法規を制定すること。また、このようにして制定された法規を委任立法と呼ぶこともある。
 なお、「法律の委任」については、「白紙委任、包括的な委任を行う法律は違憲となる」と書いてある。


 国家総動員法は、大日本帝国憲法時代の軍事国家でさえ、批判があった事態です。これを憲法のレベルで変えようとしているのが、改正草案の(つまり、これを作った者どもの)正体だ。

 政府の御用新聞などには、この緊急事態条項なら野党の同意も得られやすいなどと書いてある。それは「大規模な自然災害」だけならばともかく、語順からして、起草者の念頭にあるのは「我が国に対する外部からの武力攻撃」が第一であることは間違いあるまい。

 この条文が無いとそのような緊急事態に対処できないというのならば、万一、このたび北からミサイルが飛んできたとき、我が国は何もできない。自衛隊は着々と準備なさっているが、これをどう説明するのだろう。



(つづく)




だが、神よ、魔王の牙より私を護りまた救いたまえ!  
「黒猫」エドガー・アラン・ポー青空文庫)より
(2017年8月3日撮影)












































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