おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

打ち出の小槌  (第1376回)

 引き続き、憲法改正草案の緊急事態条項(第98条・第99条の案)について、こちらも負けずに言いたい放題を続ける。前にも似たようなことを書いたが、ここは「彼らの正体」を知るうえで宝の山です。今回だけでは終わらないほど。

 本日は国家予算に関すること。緊急事態ならば、追加予算が必要であるという点は、一般論として当然至極のことであります。緊急事態ならば。そして、手続が「適正」ならば。例えば、いま北のミサイル騒動で、さっそく補正予算案が出た。与野党とも、GNP1%枠って知らなそうだな。こういうのが改正草案では、どう為り得るか。


 国家予算案が、法案でなければいけない点は、すでに見ました。しかし、改正草案の緊急事態条項においては、これを内閣が政令で、法律と同じ効果をもつものとして自作自演ができる。理解が間違っていないか、今いちど案文を読もう。

(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。


 親切この上ない。わざわざ後半に、「財政上必要な支出その他の処分」と例示がしてある。お金が使いたいのですね、自由に、民主ではなく。そのあとどうなるのか。政令は事後に国会の承認が必要と総論的に示してあるだけで、決算や財務報告や会計検査についての詳細は、書き忘れたらしい。

 ここでの緊急事態の定義からして、その予算とは軍事費や災害復興費が主たるものなのだろう。この大金の行き先は、さすが伝統を重んじる改正草案だけあって、長い馴染みの重厚長大産業になりそうな気配がする。


 予算案だけではないのだが、やや関連して、まだ特筆すべきことがある。この緊急事態においては、衆議院の優先が際立っている。まず、第98条に戻って、最後の第4項を見ます。

第九十八条
四 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。


 このうち該当部分だけ引用すると、本文中の第二項とは「緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。 」であり、その次の前項後段とは、第三項の二行目「また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。」です(二行しかないから、後段とは二行目だろう)。

 緊急事態の宣言と、その延長の国会決議は、「第六十条第二項の規定を準用する。」と明言している。大儀である。何が準用されるかというと、次の条項です。

(予算案の議決等に関する衆議院の優越)
第六十条 予算案は、先に衆議院に提出しなければならない。
二 予算案について、参議院衆議院と異なった議決をした場合において、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。


 さらに、この「三十日以内」という締切を、「五日以内」に圧縮する。以上を一まとめにすると、衆議院過半数をとれば、内閣総理大臣独裁政権になり得る。しかも、第99条第4項によれば、エンドレス。

四 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。


 これは、政府というより、幕府と呼びたい。しかも、お金が足りない場合は、彼らの好きな帝国憲法時代の前例のひそみに倣い、緊急事態の宝刀、国家総動員法も作れる。金が無い場合は、モノと労働で上納せいという租庸調の律令

 政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ること+アルファになりませんように。



(おわり)



奥美濃山麓。清く正しく美しく。
(2017年7月23日撮影)