おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

地方自治について【後半】  (第1372回)

 前回の続き。もう一度、同じ箇所を引用します。

【現行憲法

第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
二 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。


【改正草案】

地方自治体の議会及び公務員の直接選挙)
第九十四条 地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。
二 地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する。

地方自治体の権能)
第九十五条 地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

地方自治体の財政及び国の財政措置)
第九十六条 地方自治体の経費は、条例の定めるところにより課する地方税その他の自主的な財源をもって充てることを基本とする。
二 国は、地方自治体において、前項の自主的な財源だけでは地方自治体の行うべき役務の提供ができないときは、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じなければならない。
三 第八十三条第二項の規定は、地方自治について準用する。

地方自治特別法)
第九十七条 特定の地方自治体の組織、運営若しくは権能について他の地方自治体と異なる定めをし、又は特定の地方自治体の住民にのみ義務を課し、権利を制限する特別法は、法律の定めるところにより、その地方自治体の住民の投票において有効投票の過半数の同意を得なければ、制定することができない。


 その昔、カリフォルニアに住み始めたころ、州にも裁判所と軍隊があるのを知ったときには驚いた。もっとも、軍のほうはアメリカの映画や小説に、州兵という言葉がときどき出てくるのだが、各州に配置されている国軍のことだとばかり思っていました。

 それはともかく、州の裁判所の存在は大きい。日本の地方自治体には司法組織がない。これが直近の東京都の知事選と都議選で話題になった。劣勢の側から、統制が効かなくなるという意見が出た。確かに、そういうリスクはある。立場が逆だった時代に無視したから、こういう事態になったのではないかと思うのだが。


 要するに、条例をつくる地方議会を仮に立法府とすると、地方自治には立法と行政の機関しかなく、司法は直接、国に頼らなくてはならない。三権分立ではない。これまでこれで何とかなってきたかもしれないが...。

 当時LA最大の新聞だったロサンゼルス・タイムズには、住民に影響が大きそうな裁判が始まると、新聞紙上にその裁判所の全裁判官の氏名と、希望者は写真も出て、各自の意見も簡略ながら掲載されていた。さすがだと思いましたね。


 改正草案の該当箇所からは「行政」の文字が削り取られ、「事務の処理」だけになっている。これだから、冒頭の「住民の参画を基本とし」などという文言が、言葉の飾りにしか見えなくなるのだ。私が普段お世話になっているのは、霞ヶ関ではなく、最寄りの区民事務所である。それも単なる事務処理だけではない。

 さらに、次の新設条項では原則、金は自分たちで工面せよと書いてある。地方も、できればそうしたいのは、やまやまだろう。ところが、せっかくつくった「ふるさと納税」なのに、一部の不心得者がいるというだけで(そうですよね?)、文句をつける中央である。

 
 最後の「特別法」の規定は知りませんでした。実例があるのだろうか。すでに指摘がなされているように、改正草案は「有効投票」(の過半数)という言葉を加筆してきた。これまでの表現は、どう読んでも有権者過半数だろう。

 言うまでもなく主戦場は、後に出てくる憲法改正の要件であり、やはり同じ改編を加えるための「前座」が、ここだ。確かに現実は、投票率の低さからして、組織票と気まぐれ投票者が動かしているのが日本の選挙結果である。それを考え直す良い機会になるなら、藪を突けば蛇が出るというものだ。

 


(おわり)




ツバメとガンの飛ばし合い
(2017年7月21日撮影)