おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

戦う覚悟  (第1258回)

アメブロで先の戦争に関するブログを書いている。そちらは続き物なので、今回の記事を挟みづらく、こちらで書いてURLを貼付することにした。報道によると、麻生太郎は訪問中の台湾で講演し、いま日本は戦う覚悟を持つことが求められている云々と述べたらしい。

次のNHKの報道によると、該当箇所は「今ほど日本、台湾、アメリカをはじめとした有志の国々に非常に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている時代はないのではないか。戦う覚悟だ。いざとなったら、台湾の防衛のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」。


それにしてもNHKは自分らの意見がないのか。小学生の日記でも、もっと気が利いているだろう。
www3.nhk.or.jp


本当に戦う覚悟を相手に伝えることは、有効な抑止力になるか。反証を一つ。先の大戦前夜、日本は国際連盟から脱退し、日英同盟を破棄した。戦う覚悟を伝えた典型例である。そのあと、どうなった。世襲のくせに祖父たちから聞いていないようだが、人類史上最大の戦争のメイン・プレイヤーとなり、最後の孤独な敗者になった。

このブログでは、法学の素人ながら憲法の重要性を思い、改憲の危機を感じて、独学ながら憲法を学んだ。現憲法は大概「第九条」が話題になるが、この第九条が置かれている第二章の題名は「戦争の放棄」。集団的自衛権のつけ入る隙などない。なぜ麻生如きに、この私を含む日本国民が、戦う覚悟を持てなどという妄言を浴びせられるのだ。汝の指図は受けん。


さらに、憲法の前文を読むと、「日本は戦争をしません」と言っているだけではなく、国際社会における平和維持を維持する努力をする旨、明記されている。この理念に従えば、ロシアにもウクライナにも戦争を止めろと言うべき立場であり、中国にも台湾にも戦争をするなと言わなければならない。しかし今、この体たらくは何事か。

念のため付け加えておくと、私は支持政党を持たない。昔でいうノンポリ、現代の報道用語でいう無党派層。ただひたすらに、どの政党であっても構わないから、世の中のためにも私のためにも、しっかり働いてほしい。これだけが我が政治信条であり、でも今はとてもじゃないが、しっかりしているとは言えないから怒っているのだ。情動的な文章になって済みません。


クーデターというフランス語がある。通常、同じ支配者階級にいる者が、強引に政権の座を奪取するという意味合いで使われていると思う。ネットにも、そういう説明がある。例えば本願寺の変や二・二六事件は、クーデターの失敗だ。だが、その意味だけでは少し狭いという考えもある。次のコトバンクにある「日本大百科事典」(ニッポニカ)の解説は以下のとおり。

「国家に対する一撃」という意味で、武力によって非合法的に政権を奪取することをいう。一般に支配階級の一部が、自己の権力をさらに強化するために、あるいは他の部分がもつ権力を奪取するために遂行される。


kotobank.jp

すなわち政権交代に限定されるものではなく、権力の非合法的な強化も含む。申すまでもなく、ここ何年か、このことは我が国において行われ続けている。本来の主権は日本国民全員にあるのだから、これを与党政治家(彼らも日本国民)だけで独占しようという動きは、「他の部分がもつ権力を奪取する」行いである。


吉川英治「新・三国志」は、私の中学生のころからの愛読書だ。この長い長い物語の中で、私が格別、好きな場面が、講談社文庫でいうと第六巻の「鴻門の会に非ず」という章に出て来る。戦闘場面ではない。それまで劉璋が支配していた蜀の国に、玄徳が入る。平たく言えば、諸葛孔明が画策した蜀の乗っ取りに成功する。

劉璋の部下には、これを諫めようとする者が出た。劉璋の車が城門から出ようと進んでゆくと、「驚くべき決意をした人間がひとり宙にぶら下がっている」。王累という者だった。彼は左手に剣、右手に訴状を持ち、足首を縄で結わいて、自ら門の下に逆さ吊りになっていた。


この姿で王累は我が君に改心を迫った。だが、駄目だった。「黙れ、汝の指図は受けん」と王に一喝され、王累は「惜しい哉、蜀や」と叫び、自ら縄を断ち、「地上の車の前に脳骨を打ち砕いてしまった」。中学生の私はこの箇所に到るまで、玄徳は正義の味方であり、ひたすら有徳の人と信じ切って応援しながら読んでいたのに、これには驚いた。

私が王累になる日が来ませんように。それでも万が一のとき、門の下で逆さに宙づりというのは、現代日本で権力者を待つ方法として成功率は皆無であろう。しからばどうするか。これも中国史に前例がある。戦車の前に立つ。しかし、これもまたその場に到るまでの手段に悩む。誰か送ってくれはしないか。


(おわり)



上野不忍池の蓮  (2023年6月21日撮影)





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