おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

選挙区制のこと (第1241回)

 前回はつい、口汚くなってしまったので(書いていて腹が立つこと自体は、全責任が私のみにあるとは思えませんが)、たまたまお読みになった方のご気分を害してはいけない。本日はできるだけ自重致します。上手くいきますように。今回は第47条。

【現行憲法】 第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

【改正草案】 (選挙に関する事項) 第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律で定める。この場合においては、各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない。


 上記の「法律で定める」とは、公職選挙法のことだと思います。少なくとも同法に、「第三章 選挙に関する区域」という章があり(冒頭の第12条のみ引用します)、有権者にはお馴染みの、一人だけを選ぶ小選挙区制や、比例代表選出と呼ばれる大選挙区制の規定がある。

(選挙の単位)
第十二条 衆議院小選挙区選出)議員、衆議院比例代表選出)議員、参議院(選挙区選出)議員及び都道府県の議会の議員は、それぞれ各選挙区において、選挙する。
2 参議院比例代表選出)議員は、全都道府県の区域を通じて、選挙する。
3 都道府県知事及び市町村長は、当該地方公共団体の区域において、選挙する。
4 市町村の議会の議員は、選挙区がある場合にあつては、各選挙区において、選挙区がない場合にあつてはその市町村の区域において、選挙する。


 かつては中選挙区制衆議院の基本だったとの理解なのだが、小選挙区制に変わった。都道府県や市区町村など、改正草案にあるような「行政区画」を主な単位として、一人だけ選出する。

 よく言われるように、小政党は極めて不利である。死に票が多い。しかも、小選挙区を試してみたところ、導入時の理想としては、確か英米のような二大政党制による切磋琢磨があったと記憶しているが、この10年で、「気分で」としかいいようのない理由により二回も政権交代があり、しかも切磋琢磨とは現状、ほど遠い感じがします。

 
 では大選挙区制が理想的、民主主義的かというと、今の比例代表が典型だが、小政党は応分の得票を期待できる一方で、大政党は「国会議員になる政治家の優先順位を、政治家が決める」という現実が付いて回る。ときには、政治家と呼びづらい候補もいて、当選してから「勉強します」と仰る。

 これでは確かに自分が投じた一票は反映されてはいるのだろうが、その替わり、どこの誰が当選したのか、ほとんど全く分からない。特に、「地滑り的大勝」のときは、諦めていたリストの下位候補まで国会議員になる(私は、当人がそう言って驚いていた実例を、ごく身近で聞いたことがある)。


 ならば間をとって、中選挙区が良いかというと、切りがない話になるが、同じ政党の候補が、両方とも優秀なのに票を分け合って落ちたり、その対応策として、地元への利益誘導合戦が起きる等のトラブルがあったのも一因となり、現行制度になったはずだ。

 利益誘導に関しては、たしかイギリスだったか、自分の居住地など利害関係のある選挙区からは立候補できない制度の国もあったはずだが、日本ではまだ実現は困難だろう。一票の格差是正のため、二つの県で選出者一名という選挙が近年あったが、やはり不協和音が流れた。


 国政選挙なのに、選ぶ方も選ばれる方も、本来は立法に携わるはずの国会議員が「陳情先」だと思っている限り、このままだろう。他方、近年の投票率の悲惨な低迷状態は、一つには、この陳情が不要・無駄になってきているのではなかろうかと推測する。利益共同体が崩れてきたのだ。族議員も減ったというし。

 このままでは、残余の利害団体が、結果的に選挙結果に大きな影響力を持つことになる。それは悪事ではないのだが、どうしようもなく偏るおそれが付いて回る。妙な言い方になるが、政治に関心がない人ほど、政治の勉強をして、投票所に行ってほしい。残念ながら、陶片追放はできない。

なお、改正草案が最後に付け足した「総合的に勘案して」という表現は、もうすっかり政治のみならず、日本社会でおなじみの常套句となった。説明がつかないときに、よく使いますね、お互い。ここでは誰が勘案するかというと、この文脈からして、この条の法律を作る人たちである。




(おわり)



若葉の季節  (2017年4月15日撮影)






























.