第七章「地方自治」の後半に入ります。今回は長いので、前半と後半の二回に分ける。相互に関連する条項が多いからでもあるが、前回と同様、改正草案の口数が多い。なぜ地方自治と、関連して財政については、こんなに関心が高いのだろう。本日の箇所にも、新設の条項がある。ではまた並べます。
【現行憲法】
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
二 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
【改正草案】
(地方自治体の議会及び公務員の直接選挙)
第九十四条 地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。
二 地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する。
(地方自治体の権能)
第九十五条 地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
(地方自治体の財政及び国の財政措置)
第九十六条 地方自治体の経費は、条例の定めるところにより課する地方税その他の自主的な財源をもって充てることを基本とする。
二 国は、地方自治体において、前項の自主的な財源だけでは地方自治体の行うべき役務の提供ができないときは、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じなければならない。
三 第八十三条第二項の規定は、地方自治について準用する。
(地方自治特別法)
第九十七条 特定の地方自治体の組織、運営若しくは権能について他の地方自治体と異なる定めをし、又は特定の地方自治体の住民にのみ義務を課し、権利を制限する特別法は、法律の定めるところにより、その地方自治体の住民の投票において有効投票の過半数の同意を得なければ、制定することができない。
現93条に当たる新94条案には、第1項に「条例」という言葉が加えられ、第2項に「日本国籍を有する者」が差しはさまれた。条例には罰則がある。形の上では懲役禁固や罰金は、身体の拘束や私有財産の侵害だから、やはり住民の選挙で選ばれたものでなければ作ることができない。
それは良いが、私見ながら、なぜ法律にせず、条約のままなのだろうと思うものもある。ここ東京のローカル・ニュースで頻繁に耳にするのが「東京迷惑防止条例」で、本名は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(都条例第86号)という。
東京はよほど治安が悪いのだろうか。しかし、この中には例えば、「つきまとい行為」の禁止令もあり、ストーカーの容疑者はこれで捕まる。こういう事件は、全国区ではないのだろうか。ご参考まで、その現物です。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/keiyaku_horei_kohyo/horei_jorei/meiwaku_jorei.files/meiwaku_jorei.pdf
第2項案の「日本国籍を有する者」については、私も二か国8年間の海外駐在において、一度も選挙権を持ったことが無い。世界的な慣行だと思うし、税金だけはしっかりとられていたが、これは道路や図書館などの公共施設を使うのだから文句はない。
ただし日本では、ことの発端が先の大戦の前にさかのぼる特殊な政治課題がある。それを一刀両断にしたいらしい。確かに、軍事国家にするのであれば、国政にせよ地方行政にせよ、外国人が権力機構の中にいるのは望ましくない。改正草案の世界では、一応、平仄が合っているのだろう。
第93項第2項は、直接選挙制の規定である。幸か不幸か、総理大臣を直接選挙で選べない日本国民であるが、知事や市長などの「長」は選べる。わが東京都の場合は、しょっちゅう都知事が任期途中で替わる。さらに、なぜか有名人が選ばれる。
その次の「議会」も、東京はご承知のように大ニュースになることが多い。他もそうなのだろうか。さて、その次の「法律の定めるその他の吏員」とは何だろう。私が「吏」という漢字でイメージするのは、「お役人」つまり行政府で働く方々である。
では、首長でも地方議員でもないから、ここでは地方公務員のことなのかというと、それに続く「その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と相反するのではないか。今まで一度も選んだことはない。選ぶのも無理だろう。「吏員」という用語は、検索しても憲法のこの箇所にしか出てこない。
一方、「官吏」という用語は、国事行為および内閣の条項に出てくる。こちらは、国家公務員なのか? でも公務員という言葉も良く出てきて、これが日常用語である狭義の「お役人」なのか、それとも国家公務員法で定められている「公務員」(大臣も裁判官も自衛官も含む)のか、今の私には分からない。
だが、これらは間もなく相対さないといけなくなる憲法の尊重・擁護の義務のところでは、その範囲を明確にすべき事柄なので、改めて話題にする。では、残りについては次回の【後半】で続けます。
(おわり)
地方にて (2017年7月21日撮影)
その昔
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