おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

国民審査  (第1361回)

 先日、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。長すぎて覚えられない。改正後は、治安の維持が目的なのだから治安維持法と呼んでほしい。叩き壊された過去の法律と全く同じでは紛らわしいなら、シン・治安維持法でも可。

 実際に犯罪が行われていない段階なのだから、どこまでが準備行為か否かの判断は、まず警察のご決断ということになる。前に、頼りは警察と書いたのだが、警察のお仕事には容疑者の逮捕、つまり疑わしきは捕まえる責務があり、事の形質上、治安当局は安全策を取らなくてはならない。


 だから、この法律だけは手を抜こうというわけにはいかない。そうなると、最後の最後、頼みの綱は現在、憲法の難解な該当箇所を読むだけで疲れている司法府の良心しかない。

 それにしても、確かに治安が悪化すると私たちは困るのだが、本来、テロというのは政治的行為のはずで、誰を狙おうが権力者を脅かす手段です。各国がテロ撲滅を唱えているのは、たぶん下々のためではなく、支配者層の自己防衛が最大の目的なのだろう。

 施行も早ければ来月と報道されている。改正とはいえ、異状な急ぎ方だ。勉強する間も準備する時間も与えない。取りあえず、こうして一人で文句を言っているうちは共謀にならないはずだ。では、憲法に戻り、今回は第79条の最高裁判所


【現行憲法

第七十九条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。


【改正草案】

最高裁判所の裁判官)
第七十九条 最高裁判所は、その長である裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官で構成し、最高裁判所の長である裁判官以外の裁判官は、内閣が任命する。
2 最高裁判所の裁判官は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない。
3 前項の審査において罷免すべきとされた裁判官は、罷免される。
4 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
5 最高裁判所の裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合を除き、減額できない。


 項目が6個から5個に、一つ減っている。今ある第4条の「審査に関する事項は、法律でこれを定める。」を不要とした。これは、おそらく改正草案の第2項案に、「法律の定めるところにより」を加え、その替わり、同項から「その後十年を経過した後」などの手続き関係を省略したのと同じ筋である。

 その法律はある。憲法の翌年に施行された「最高裁判所裁判官国民審査法」。この法律に、先ほどの「その後十年を経過した後」が出てくる。ダブっているので、憲法のほうを省きました。それでよろしいか、裁判官のみなさま。

 何度でも繰り返すが、憲法を改正するためには「三分の二ルール」と「国民投票」を乗り越えないといけないが、法律は衆参の過半数で変えることができる。やったばかり。これは同規定の「格下げ」であり、与党の好きなように変えられる確率が高まる。


 さて、国民審査は、ごくまれに投票のときになって、「おや」と気付くころにやってくる。有権者になって三十年余、国民審査で赤点をとり落第した最高裁の裁判官の実例を知らない。たぶん皆無だろう。知らない人に対して、失格と言えるはずがない。

 ただし、最近は新聞報告などで、最高裁の裁判官による過去の判断などが公にされているのを散見します。もっとやっていい。第1項のとおり、任命するのは何と内閣なのだ。現状、うちのマンションの管理組合のほうが、よっぽど民主的で良心的である。

 最高裁長官が除外されているようにみえるのは、第6条第2項「天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。」とあるからで、結局、実際には内閣なのだ。


 古い話だが、1980年代にカリフォルニアで働いていたころ、当地最大の新聞「ロサンゼルス・タイムズ」は、確か州の裁判に関してだったと思うが、各事件についての判断とコメントを、担当する裁判官全員の顔写真と実名入りで報道していて、凄いと思った。

 これがなければ、国民審査は実質的に機能し得ない。報道機関の怠慢といってしまえば楽なのだが、多分それ以前の問題として、この国では裁判官が裁判所以外のところで、ものを言ってはいけない風土がある。実際、聞いたことないですよね。次また考えます。




(おわり)





タイサンボクの花  (2017年6月6日撮影)








































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