おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

3月3日 法令の勉強  (1235回)

本年2月下旬、雑誌の記事を書いてほしいというお仕事をいただき、快諾したあとで慌てて勉強することになった。記事のテーマは、新型コロナウイルスに関して、経営者や人事がどのどうなことを注意すべきかという大事なもので、一方、そのころの私は全くの別件に集中していたため、COVID-19 には疎かったのです。今回は少しばかり堅苦しいテーマ。

このときに参照した資料の一つが、今も逐次、更新されている「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」という厚生労働省のサイトにあるガイドラインです。会社の中で感染者が出たらどうするか。その一節、2月24日時点の記録を貼ります。この箇所は4月下旬の今も、内容を膨らませつつ有効です。



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ここでは、感染症法を適用することし、労働者安全衛生法の第68条は対象としないとあります。次の条文が、同法の第68条です。

(病者の就業禁止)
第六十八条 事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。


これは労働者保護の法律ですので、罰則付きで事業者(≒会社や個人事業主)に対して、感染症の患者は働かせてはならないと禁じています。法律家ではないので字面だけで考えますが、これだけでは、役員に出社を禁ずることもできないし、私のようなフリーランスも対象外です。

おそらく、そういう事情からだと想像するのですが、Q&Aでは代わりに感染症法、正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」を選んでいます、感染症法は、労働者に限らず、都道府県知事が就業制限をかけたり、入院を勧告したりすることが「できる」。都道府県により異なります。COVID-19は、これの対象に分類されたということです。


i一方で、前者の労働安全衛生法では、対象となる病気を厚生労働省令で定めるとなっています。伝染性があるからといって何から何まで禁ずると、たとえば、ごく軽い風邪でも引っかかってしまいましょう。COVID-19を、この省令で定める病気に含めなければ、法の趣旨はともかくとして、即座に就業禁止にはなりません。

実際、先日、検査結果が陽性と分かりながら、病院が看護師を働かせていたという件が報道されました。とんでもない話ですが、仮に労働安全衛生法違反だったら、懲役または罰金がありますので、命じた経営者は一昔前の表現でいうと「前科者」になるはずですが、今のところ、そういう話題にはなっていないはずです。


政府や多くの報道機関・言論人はこの病気を「社会的制裁」で封じ込めようとしている実例を、これからも見ることになります。言い方を変えれば、強制ではなくて自粛ばかり。国民が勝手にお互いの看視役と懲罰係になってくれますから楽です。私的制裁、リンチの世界です。

さて、タイトルの「3月3日」というのは、私が執筆を請け負った記事の納期だったのですが、正確には本年3月3日午後3時が締め切りでした。日付だけでなく時刻も定めて文中に入れておかないといけないほど、情報の更新・追加が激しかった。3を三つならべたのは、覚えやすいようにです。


その翌4日、与野党は「現行の現行の新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に新型コロナを加える」検討をしています(朝日新聞の報道による)。この「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が、最近よく耳にする「特措法」です。

この法律は2009年に大流行した新型インフルエンザのあとにできたのが名前からも分かりますが、その対象疾病に、COVID-19 も加えようという意向です。野党も異論はなかったようですが、可決される前、3月12日の国会で森法相が「東日本大震災の時に検察官は最初に逃げた」(読売新聞の報道による)と目のくらむような発言をし、審議が遅れて、改正法を可決したのは3月14日でした。


特措法で話題になったのは、何と申しましても第32条の緊急事態宣言です。これは先の話だし、後に詳しく触れたいので、今回は同法に関連する別の話題です。ほかにもよく引用されるのが、第24条の都道府県知事による「総合調整」という比較的、緩やかな措置と、これとは別に第45条の「協力要請」です。

第45条のほうが厳しく、単なる頼み事ではなくて、その第3項には要請に応じない者に対して、「当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる」とあります(日本語だろうか、これは)。


古い資料を見ると、この分からず屋に指示する「措置」とは、「換気」のことだと書いてあります。三密の一角を崩そうというもので、飛沫感染の防止だと理解しています。しかし、このたび、これでも不足の事態が起きました。パチンコ屋。

大阪府知事が休業要請に応じないパチンコ店6店舗の店名・所在地を公表したのは、4月24日でした。換気ではなくて公表です。こういうことは何等かの法令上の根拠がないとできません。この前の日、政府が特措法第45条の要請に関する「ガイドライン」を定めたと報道各社の記事にあります。記者会見もやった。

そのガイドラインは、内閣官房のサイトにある4月23日の「事務連絡」というもののようで、これにて公表を行政処分に加え、その翌日に大阪府が公表し、同日、東京都も同じ方針を採る予定と発表しました。泥縄という。



(おわり)



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桜三月散歩道  (2020年3月13日撮影)





















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