おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

前法と後法  (第1910回)

 たまたま本ブログに立ち寄られた方へ、過去も何回か念のため書いているのですが、私は法律家ではありません。司法試験は受けたこともない。大学のときは経済専攻で、民法や商法の単位を必要最低限、取ったぐらいの関わりしかない。あとは、今の仕事との関係で、労働法は毎日のように勉強している。その程度ですが、憲法改正国民投票がなされるときは、私も自分で考えて自分で決めないといけないから準備中だ。

 つまり、書いているのは基本的なことばかりです。慎重を期していますが、誤解があるかもしれない。でも恐れていては先に進まない。さて、法は(ここでは法律だけはなくて、政令や条例も含めて広く考える)、近似のものが二つあるとき、その両者が矛盾する可能性がある。最初から矛盾するように作るとは思えないので、たとえば時勢の変化とか、例外の規定を設けたときとかに起こりうるのだろう。


 労働法の世界で良く知られているのは、解雇の法的な扱いという一例です。民法では雇用契約という言葉を使い、労働法では労働契約という言葉を使いますが、労働者にとっては同じと考えて良いかと思います。労働法専門家の法律家の話を聞いていても、だいたいそう仰る。

 民法では、原則として、労使いずれも二週間前に通知すれば、雇用契約を解除できるとある(この原則に対する法定の例外は、細かいのでここでの議論からは外します)。つまり、労働者が契約解除には反対であっても、使用者(≒会社)は、一方的に雇用契約を解除(つまり解雇)できる。


 一方で、法学の世界では、後法が前法に優先するとか、特別法が一般法に優先するという大きなルールがある由。民法は典型的な一般法です。民法の特別法は無数にあるかと思いますが、商事法や労働法のグループがそれに当たるそうだ。この労働法の中には、現状、民法の規定と矛盾するものがある。

 例えば労働基準法は、労災で休業中の労働者あるいは産前産後の女性の労働者は、解雇できないと規定しています。この場合、一般法である民法よりも、特別法である労働基準法が優先して適用される(つまり強い)から、例えば産前産後で休業中の人に、二週間前に解雇を通知しても、出るところに出れば負け。解雇は無効です(大人しく辞めてしまえば、単なる合意退職になりますが)。

 
 これと似たような考え方で、後法は前法に優先するというルールもあるそうで(詳しくは、これで検索して弁護士さんの意見などお読みください)、両者が矛盾する場合は、後から出来た法が、前からある法に優先する。新法は、より新しい時代の状況や、法学の通説を前提にできたからということでしょう。法律でいえば、最新の選挙で選ばれた国会議員の議決によるから優先だということだと思います。
 
 次の揚げる例がそれに該当するのかどうか、自信満々というわけではないのですが、少なくとも似ているように思う。労働基準法は、上記の例外を除けば、解雇がダメだとは言っていない。しかし、あとからできた労働契約法では「解雇権濫用法理」が規定されたし(大意、無茶苦茶な解雇は許されない)、育児介護休業法では、結婚や妊娠という理由だけで解雇や雇止めなどをしてはいけないと定めています。


 ようやく憲法の話。第9条の追加項目に関する話題です。追加する以上、仮に元からあった条項と矛盾するとしたら、どうなるのか。憲法にも、後法と新法の優先順位ルールが適用されるなら(上述のような理由付けであれば、憲法も例外ではない)、追加でできた条文のほうが優先するはずです。ましてや、追加された条文の中に、例えば「前項の規定にかかわらず」なんて書いてあったら、自明です。

 今年(2018年・平成三十年)の3月25日に、自由民主党の党大会があったそうで、幾つかの報道によれば、四つの改憲項目についての発表があったらしい。ネットで読む限り、どうやら、自衛隊の明記、緊急事態条項、衆議院の合区解消、教育の無償化という4テーマであるそうだ。だが、私の調べ方が悪いのか、それとも存在しないのか、具体的で詳細な改正案なり説明文なりが公表されていない。 


 もっとも、自衛隊を明記するという点については、各政党も報道機関も個人的な意見も賛否両論、活発な議論が続いており、それらによると現行の第9条(第1項と第2項からなる)に、3番目の項目を入れるというような「感じ」の主張を総理がしているらしい。条や項にも、後法と新法の優劣が適用されるのであれば、もしも第9条の第1項または第2項と追加分が矛盾する場合、三つ目の自衛隊の条項が優先ということになるのだろう。

 第9条第2項を改めてみると、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」とある。万が一、三つ目の条項として、「第9条第2項の規定に拘わらず」で始まり、次に自衛隊を明記し(すなわち合憲とし)、かつ、自衛の場合は国の交戦権を認めるという改憲がなされたら、どうなる。


 多くの反対論者は、「戦争ができる国になる」と仰るが、私に言わせれば、甘い。「国民が戦争をさせられる国」になる。かつて実際そうだった。自衛隊以外は戦争に駆り出さないとでも明記すれば別だろうが、そんな上品な改憲は期待しない。戦場に行かなくても、焼夷弾や原爆が落ちてきてから、まだ百年も経っていない。経験者が存命している。

 国民が定める「民定」の憲法で、私たちは自ら私たちが戦闘員になることを認めることになり、自衛と侵略の区別などそう簡単に付くものではないと思うから、心構えとしては、どんな戦争でも赤紙が来ることを覚悟しないといけない。慎重論を採れば、そういうことだろう。改憲案が、どういう文章表現で登場するのか、注視しているのは日本国民だけではあるまい。次回もこの話題を続けます。



(つづく)




近所の池に来た白鳥。優雅で平和そのものでございました。
(2018年4月30日撮影)

























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