おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

PKOの基礎の勉強  【前半】  (第1281回)

 まず前回の最終部分の再確認です。防衛白書において、いわゆる「駆け付け警護」が実施される前提条件は、(1)参加5原則が満たされており、かつ、(2)派遣先国及び紛争当事者の受入れ同意が、国連の活動及びわが国の業務が行われる期間を通じて安定的に維持されると認められることの二点です。

 先に後者の(2)について、まずこの原稿を書いている時点で(2016年12月4日)、南スーダンに対する外務省の渡航情報は最も危険であるレベル4の「退避勧告」で、アフガニスタンイラクと同レベル。そもそも平和なら、国連はPKOをやらないが、ともあれ民間人は「逃げろ、行くな」という深刻な治安状態にある。


 では、南スーダンの「受け入れ同意」が、派遣期間中に安定的に維持されるか否か、つまり歓迎光臨であり続けるかどうか。これに関する最近のメディアの情報は、極めて否定的な材料ばかり提供しているようにみえる。いずれも単独の記事のようで、追加報道などは不明だが、心温まるニュースではない。

 例えば、「国連南スーダン派遣団(UNMISS)の楊超英・軍司令官代理」によれば、「和平合意が維持されているとは言えない」そうで、陸上自衛隊が活動するジュバの治安状況は「予測不可能で非常に不安定」(朝日新聞デジタル、11月26日)。

 上記のように「軍司令官代理」が応答している理由は、国連南スーダン派遣団(UNMISS)の「代表を務めたエレン・ロイ事務総長特別代表(デンマーク)が11月30日付で退任し、今月1日から代表の座が空席となっていることがわかった。11月には軍事部門のオンディエキ司令官(ケニア)が更迭され、やはり空席」(現代ビジネス、12月3日)。経営者不在。


 でも自衛隊を追加派遣した以上は、日本の首相も防衛相も、(2)は大丈夫と判断するに値する情報と覚悟がおありなのでしょう。では、(1)の「参加5原則」とは何か。これは外務省のサイトに掲載されている。ここに、「参加5原則とは何ですか。」という私向きのQ&Aがある。レイアウトのみ変更のうえ引用します。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pko/q_a.html

 A: わが国が国際平和協力法に基づき国連平和維持活動に参加する際の基本方針のことで、

1) 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
2) 国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
3) 当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4) 上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること。
5) 武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。

 の5つを指し、それぞれ国際平和協力法の中に反映されています。


 以上は、冒頭に書いてあるとおりで、日本のPKO参加の「基本方針」である。これとは別に、本隊の国連にも「基本三原則」というのがある。日本の原則は国連より二つ多くて、慎重なのだ。うち一つが上記の4)であることは表現からして明らかだ。それにしても文末は「できる」であり、1)から3)が崩れても、必ずしも即時撤退する必要はない。短期的に回復しそうならば待つのだろうか。

 では、国連の「基本三原則」について。外務省のサイトに説明があり、さらに内閣府のサイトでは国連資料の出典も明記しているので、両方を参照する。もう一つの違いがこれで、はっきりする。上記1)の「紛争当事者の間で停戦合意が成立していること」がない。外務省のサイトにも「主要な紛争当事者の受入れ合意」と書いてあるのみ。
(外務省)http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol104/index.html
内閣府http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article066.html

 (引用。資料番号は省略) 国連平和維持活動(PKO)を展開する上での基本三原則として、国連事務局は近年、(1)主たる紛争当事者の同意、(2)不偏性・公平性、(3)自衛・任務防衛以外の実力の不行使を挙げています。


 あくまで文面上のことであるが、やはり国連の原則(1)にある「同意」とは、「PKOを展開する」ことに対する同意であるとしか読めず、紛争当事者間の停戦合意ではない。したがって、日本のPKO法にある参加5原則のうち、1)「紛争当事者の間で停戦合意が成立していること」は、日本が独自に調査・確認しなければならないはずだ。派遣中ずっと。4)があるからでもある。

 もう一つ、内閣府の文章に「近年」とあるように、最初のうちは「主たる」ではなくて、「全当事者の同意」だったのが、2008年に理論修正されたということだ。小グループに分裂して争い合っていたら、らちが明かないという現実路線なのだろう。それで平和維持が早期に完遂できるのであれば申し分ない。この点、日本の5原則の2)では、「主」なのか「全」なのか、つまびらかでない。

 今回の最後に、日本の5原則のうち5)は、ごく最近、変更になったはずです。安保法制の成立に伴い、「いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。」ということで、守備一辺倒ではなく、攻撃もできるようになった(武器の種類が増えた)ということだろう。長くなった。もう少し言いたいことがあるため、それは次回にまわします。







(おわり)







夕焼け雲  (2016年8月25日撮影)



































































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