おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

いわゆる「駆け付け警護」  (第1279回)

 改正草案の第25条の3が、第9条と関係しているはずというのは、単なる思い付きではない。草案の該当部分を並べてみます。

(在外国民の保護)
第二十五条の三 国は、国外において緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない。

第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
二 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
三 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。


 もう一度、第9条の2案をみる。国防軍の創設目的は、第1項で明示されているとおり、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」である。そして、第2項と第3項の双方に、第1項に規定する「任務を遂行する」とある。

 この「任務」とは、軍のなすべきことだから、第9項第2項に定めた「自衛権」に基づく、抑止と戦闘だろう。他にあるだろうか。戦闘中の後方支援が、戦闘の一部であることは譲れない。特に、敵にとっては。

 第2項に、この「任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」とある。抑止に法律や国会の承認が必要なのは、ご予算が要るからだ。武力出動となれば、お金に加えて、行動を起こすかどうかの判断も、追加でなされることになる。


 最後の第3項では、第1項に規定する任務を遂行するための活動の「ほか」とあるから、追加の定めである。かつて書いたように、文面上、この「ほか」には、法律の定めが必要という規定になっているが、一方で、国会の承認その他の統制は、文中に書いてない以上、不要である。

 そして「ほか」の内容は、(1)国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動、及び、(2)公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動、という二つの活動であり、文末が「できる」だから臨機応変に、やってもやらなくても良い。上記の第25条の3にある「在外国民の保護に努めなければならない。」は、(2)に含まれる。


 さて、私がここで足踏みをしているのは、さっそく時事問題になってしまった「駆け付け警護」とは何か、という課題を少しでも克服するためだ。こんな言葉はかつて聞いたことがない。実際、幾つかのメディアに、一昨年の閣議において、集団的自衛権の行使を認める閣議決定をした際の顛末が報道されている。英訳が上手くできなかったのだ。


 まず、この閣議決定は、内閣官房のサイトにもある「平成26年7月1日 国家安全保障会議決定 閣議決定」という文書でその内容が示されている。
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/anpohosei.pdf

 これを英訳したものが、外務省のサイトに掲載されている。
http://www.mofa.go.jp/fp/nsp/page23e_000273.html


 何のために英訳したのだろう。アメリカにお見せするためか、国連にお届けするためか。どちらも必要なのだろうが、副作用が出た。報道等で指摘されたように、妙なローマ字表記が紛れ込んだのだ。

本文2(1)項目名:  いわゆる後方支援と「武力の行使との一体化」 
→  So-called Logistics Support and "Ittaika with the Use of Force"

本文2(2)ウの文中: いわゆる「駆け付け警護」          
→  "kaketsuke-keigo" (coming to the aid of geographically distant unit or personnel under attack)


 ざっと見ても二か所、目につく。やっぱり、「いわゆる後方支援」は、「兵站」(ロジスティックス・サポート)です。通常、「いわゆる」に続くフレーズは、馴染みがない専門用語などを、一般的な言葉で理解しやすいように補うものだ。それがローマ字表記の日本語とあっては、「自家製です」と主張しているだけで、何の救いにもなりません。

 もっとも、「駆け付け警護」のほうは、カッコ内に英語の説明がある。私訳「地理的に離れ、攻撃を受けている組織または個人を援けに来ること」。この「組織または個人」とは、この項目の表題である「International Peace Cooperation Activities」に従事する人たちを指す。


 これは原文の日本語だと「国際的な平和協力活動」であり、正確な直訳だろう。これは、PKOを含むが、PKOだけではない。このことは和文に「国際連合平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活動」、英文に「international peace cooperation activities including peace keeping operations (PKOs)」とあるから間違いない。

 自衛隊は、例えば離れた場所で多国籍軍が戦争をしているときも、場合によっては駆け付けて、外国人だろうと警護することが「できる」。その場合、国防軍ではなく自衛隊である間は、憲法で禁止されている「武力の行使」は避けつつ、本閣議決定に基づく次のような法制度の下、「武器の使用」は可能という離れ業を演ずることになった。この件、つづく。

 国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用及び「任務遂行のための武器使用」のほか、領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動ができるよう、以下の考え方を基本として、法整備を進めることとする。




(おわり)




唐突ですが昔懐かしき百葉箱
(2016年1月16日撮影)


ピンぼけですがせっかく撮ったので秋桜
(2016年9月23日)





















































































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