おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

基本的人権ランキング  (第1377回)

 何かと話題の多い緊急事態条項ですが、とりあえず今回で一区切りします。改正草案の第99項第3項案を引用する。「何人も従え」という相当、高圧的な憲法を志向している。内閣総理大臣は、よほどの人物である必要がある。

(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 (中略)
三 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。


 指示を出すのは「国その他公の機関」である。例えば国防軍とか。問題は「この場合においても」で始まる後段だ。「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。」

 最大限ということは、決して言葉尻をとらえるのではなく、限度・限界があるということだ。例えば、いまの憲法では第13条に、国民の権利について、「公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と書かれている。

 これが改正草案の第13条では、「国政の上で、最大限に尊重されなければならない。」と、わざわざ書き直しているのだから、改正草案において「最大」と「最大限」は明らかに異なる。どちらが、制限付きか申すまでもない。


 さらに、国民の権利のうち、上記引用にある「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条」と、「その他の基本的人権」は扱いが違う。ご丁寧に条文の番号を拾っているということは、これらが優先であり、「その他」は劣後であるというのが、国語の常識です。

 改正草案のうち、番号付きの条項をタイトルだけ挙げると、第14条は法の下の平等、第18条は身体の拘束及び苦役からの自由、第19条は思想及び良心の自由、第21条は表現の自由。これらは、比較的であるが、尊重されるらしい。


 もちろん、問題は選に漏れた「その他」の条項である。制約を受けやすいと覚悟しなければならない。以下は、そうするしかないので、改正草案の条文案を使う。総論・根幹とも言うべき、次の二つは、例外が生ずる以上、当然あまり大事にされない。

基本的人権の享有)
第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。

(人としての尊重等)
十三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。


 このあとの第20条(信教の自由)、第22条(居住、移転及び職業選択等の自由等)、第23条(学問の自由)も二軍扱いになった。論外であると切り捨てるべきは、第25条(生存権)の「健康で文化的な最低限度の生活」も、その他の扱いになっている。では、各論の最後に、次の三か条を見ます。

(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
第十五条 公務員を選定し、及び罷免することは、主権の存する国民の権利である。
二 全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
三 公務員の選定を選挙により行う場合は、日本国籍を有する成年者による普通選挙の方法による。
四 選挙における投票の秘密は、侵されない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。

(請願をする権利)
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願をする権利を有する。
二 請願をした者は、そのためにいかなる差別待遇も受けない。

(国等に対する賠償請求権)
第十七条 何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は地方自治体その他の公共団体に、その賠償を求めることができる。


 これらには、公務員の罷免であるとか、公務員の不法行為といった、耳が痛いであろう用語が出てくる。ところで、「公務員の罷免」とは何だろう。いずれ勉強しないといけないが、悩みだけは備忘録として書き遺しておきます。

 私が「公務員」という言葉でイメージするのは、公務員試験に合格して、霞が関都道府県庁や市区町村役場で働いている「高級官僚」や「お役員」などの一般職、また、上下水道やごみ収集でお世話になっている現業の皆さん、そして警察・消防・海上自衛隊などの治安当局に自衛隊各位。


 いずれも、罷免できない。そういう制度があるとは聞いたことが無い。思い浮かぶのは極めて特殊なケースで、最高裁判事の国民審査や地方自治体における首長のリコールくらいか。滅多に「罷免」は実現しない。

 私たちが公務員を「罷免」に類することができる典型的な例は、議員を選挙で落とすことだ。憲法においては、国事行為の中にある「官吏」、地方自治にある「吏員」こそ、先ほど私が挙げたイメージ上の公務員であって、憲法用語の「公務員」は議員ではないのか。これは法律論ではなくて、辻褄の話です。


 すでに見てきたように、衆議院議員は緊急事態が宣言されたら、それが終わるまで選挙の洗礼を受けない。あれほど解散したがる割に、ここではできるだけ長いこと働きたいのだ。前回申し上げたとおり、ご予算使いたい放題ですからね。したがって、第15条や第16条が制限されるのは、彼らにとって当然のことだ。

 この精神衛生上、極めて良くない作業も程々にしたいのだが、次はまた改正条文の出番が来る。改憲の議論は第9条に目を向けがちだが、改正草案はこの緊急事態条項およびそれ以降の幾つかの条文が危険物なので、この辺で読み疲れてはいけない。




(おわり)




キリギリスは保護色を使う。しかし、これは目立つな。
(2017年7月22日撮影)
















































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