おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

法三章  (第1256回)

 とにかく改憲したいらしい。私も、まずは一とおり今の憲法に目を通すという作業を、優先しないといけないと感じるようになってきた。前にも書いたような気がするが、極右の言論人の中には、憲法は国家の統治機構だけ定めればよいという主張がある。

 統治機構の具体的な定めは、第四章以降が中核である。第一章の天皇、第二章の戦争放棄、第三章の国民の権利と義務は、このままなら、無い方がましという意見だと受け止めている。誰が虎の威を借る狐であるか、識別する際に便利です。では、内閣の章の続き。


【現行憲法

第六十七条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
2 衆議院参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第六十八条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

第七十条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

第七十一条 前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。

 自民党の改正草案は、追加新設の項目がある第70条のみ掲載します。

【改正草案】

第七十条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員の総選挙の後に初めて国会の召集があったときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
2 内閣総理大臣が欠けたとき、その他これに準ずる場合として法律で定めるときは、内閣総理大臣があらかじめ指定した国務大臣が、臨時に、その職務を行う。


 第67条の第1項は、実際には国会の責任を明確にしたものだ。前半は、国会が内閣総理大臣を(きちんと)選ぶべしということであり、後半は内閣総辞職または衆議院解散後の最初の国会で、行政府の長を最優先で選べという、これは仰るとおりの規定だと思う。第2項は前例を知らないが、これも衆議院の優先で急ぐべしというルール。

 第68条は、野党の決めゼリフでお馴染みの任命責任。謝罪や叱責では収まらないとき、第2項の罷免に至る。はずである。罷免というのは強い言葉だろう。「クビ」だ。コロコロ改造してよいという意味ではあるまい。


 過半数が国会議員でなければならないというのは、他国の実例を知らないが、妥当なところなのだろう。例えば、文化や災害復興は特殊な分野・課題であり、これらを軽視することなきよう(きちんと)専門家を人選していただく。

 第69条はすでに話題にしました。参議院は解散できない。選ぶ方も選ばれる方も、ある程度の時間的余裕をもって臨むことができる。過去、参院選の大敗で、政権を失ったり、逆に横暴になったりするケースが多いのは、予定調和的要素が比較的、強い衆院選との違いもあるかと思う。


 第70条と第71条は、総理が勤務不能になったとき、または、衆院選挙中の留守番、いわゆる選挙管理内閣がお役御免になったとき、新総理の選任も含め、内閣は組み直しが義務付けられている。

 改正草案がこれに加えて臨時の場合の規定を加えてきたのは、西暦2000年代に入ったばかりにおきた不幸な「欠けた」ときの苦労と、その際の無理がたたってのことであろうか。確かに、何日もの不在よりは臨時でもいないと困るのが今の体制だ。


 しかし、この件も繰り返してやまないのだが、ここでも「法律の定めるところにより」と加えられているから、またぞろ新しい法律を作る(または改変する)おつもりか。今の政権になってできた法律の顔ぶれと、それに加わりそうな候補も加え、どうにも統治機構の体重増加が不健康なレベルになっている。

 今回のタイトル「法三章」は、司馬遷史記」の「高祖本紀」に出てくる高祖(劉邦)のエピソードで、法治主義があまりに厳しかった秦の治世の方針転換を宣言したときのお話しだ。三つの章で良いとしておられる。この言葉を含めた蕪村の句は、正岡子規が「俳人蕪村」で、また、宮城谷昌光が「史記の風景」で高く評価している。

畑打ちや法三章の札のもと  蕪村




(おわり)






通りがかりの街角で (2017年5月24日撮影)





































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