おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

国家安全保障会議  (第1924回)

 私はこのブログを書き始めた一昨年(2016年)まで、憲法や軍事にほとんど関心が無かった。このブログとて、何か高尚な動機があって始めたわけではなく、何だか世間で憲法改正がどうのこうのと話題になっているようなので、これを機に少し勉強しておこうかというレベルでありました。

 そういう訳なので、それ以前の改憲の動向(例えば2012年の自民党改正草案)であるとか、軍事・自衛隊関係の出来事は、ほとんど全く知らずにいた。後者の一例が、今回の題名である「国家安全保障会議」(略称はNSC)。これも、伯父が戦死した関係で米軍の軍事資料を読んだりネットで調べたりしていたら、アメリカの同様の組織が同じ名前で翻訳されていたので偶然、知った。


 しかも、その内容なり役割は、その時あまり気にせずに通り過ぎ、最近ようやく古賀茂明著「国家の暴走」を読んで、やっとこさ、その概略を知り得たばかり。忘れないうちに、また、関心を失わないように、今の内に、ともあれ話題にだけはしておこうというのが今回の記事。詳しい方々が読んでも、時間の無駄になること請け合いの基礎編です。

 この会議は法定の組織であり、根拠法は「国家安全保障会議設置法」という(以下、「根拠法」という)。この根拠法が可決されたのは、昭和六十一年とけっこう昔だが、実際にNSCが開催されたのは、官邸のサイトによると2013年のことだ。

 (根拠法)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=361AC0000000071_20220801_504AC0000000043&keyword=%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E5%AE%89%E5%85%A8%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E4%BC%9A%E8%AD%B0

 (開催状況)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/anzenhosyoukaigi/kaisai.html  


 中曽根内閣でできた法律により、改正草案発表のあとで安倍内閣が会議を始めた。この長い空白期間はなぜなのか知らないが、推測するに附則にあるとおり、内閣法の改正が必要だったのと、たぶん政権交代自民党が下野したからだろう。

 上記の「開催状況」をみると、古賀さんが前掲書で指摘しているように、同法には二種の会議が規定されており、委員の大臣の人数をとって、それぞれ「九大臣会合」および「四大臣会合」がある。前出の開催状況によれば、現時点で、近年はほとんど「四大臣会合」ばかりになっている。


 この二つの会合は、根拠法の第五条第一項および第二項に定めがある。転記します。
第五条 議員は、次の各号に掲げる事項の区分に応じ、当該各号に定める国務大臣をもつて充てる。
一 第二条第一項第一号から第十号まで及び第十三号に掲げる事項 前条第三項に規定する国務大臣総務大臣外務大臣財務大臣経済産業大臣国土交通大臣防衛大臣内閣官房長官及び国家公安委員会委員長
二 第二条第一項第十一号に掲げる事項 外務大臣防衛大臣及び内閣官房長官

 上記のうち、第一項にある「前条第三項に規定する国務大臣」とは、前条(第四条)をみると、内閣総理大臣(なんかあったときは次席)のことだ。第二項は数えると三名なのだが、第四条で内閣総理大臣が議長に定められているので、実質四名なのだろう。変なの。
第四条 議長は、内閣総理大臣をもつて充てる。
2 議長は、会務を総理する。
3 議長に事故があるとき、又は議長が欠けたときは、内閣法(昭和二十二年法律第五号)第九条の規定によりあらかじめ指定された国務大臣(順位を定めて二以上の国務大臣が指定されているときは、最先順位の国務大臣)をもつて充てられる議員がその職務を代理する。

 この法律は他にも変だなあと思う点があって、第二条に、この「会議は、次の事項について審議し、必要に応じ、内閣総理大臣に対し、意見を述べる。」とある。諮問会議のようなものかと思いきや、さにあらず、議長が総理で、会議が議長たる総理に意見を述べるとは、どういうふうに組織決定方法を理解をしたらよいのだろう。

 しかも、委員は全て大臣であり、憲法第六十八条によれば、総理が任意に罷免できる方々だ。これでは、実質的に内閣総理大臣が一人で何でも決め得ると言っても、決して言い過ぎではない仕組みです。
憲法 第六十八条
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

 開催状況を今一度ながめると、防衛大綱も四大臣会合の議題になっている。では、改めて根拠法第五条に戻ると、第二項に「四大臣会合」の任務が規定されていて、「第二条第一項第十一号に掲げる事項」である。第二条は長いので当該の部分だけ引用すると、「十一 国家安全保障に関する外交政策及び防衛政策の基本方針並びにこれらの政策に関する重要事項(前各号に掲げるものを除く。)」とある。


 重要事項は少人数で早期に議論し決断するというのは、一般論としては当然のことだろう。さはさりながら、安全保障それ自体がそもそも重要事項であるためか、他に理由があるのか分からないが、かなりの部分を「四大臣会合」で決めているというのが実態なわけだ。

 四大臣とは、内閣総理大臣外務大臣防衛大臣内閣官房長官です。九大臣に入っていて、四大臣に含まれていないのは、財務大臣経済産業大臣国土交通大臣国家公安委員会委員長。言いたいことが、幾つかある。


 自衛権を発動してドンパチになるのを決めるのは、間違いなく重要事項だから四大臣会合なのだろう。そのメンバーに、財務大臣が入っていないというのは、どういうことか。予算度外視ですか。国家財政に与える影響は検討しなくてよいと聞こえるが、気のせいか。

 先の大戦において、アメリカは平時財政と軍事財政という二本立ての国家予算を組んでいた。金が足りなくなると、戦時国債で歳入を得ていた。この軍事財政が国会で承認されなかった年に、ベトナム戦争が終わったと聞いたことがある。大日本帝国は、国家総動員だから、当然、軍事財政しかなかった。戦後、平時予算の組み方が分からなくて、苦労したらしい。


 また、担当の行政府でいうと、主に、海上保安庁国土交通省、警察は国家公安委員会だと考えるが(全部がそうなのかは知らない)、だからこそ九大臣会合に入っているのに、彼ら抜きで重要事項をガンガン決めている。海上保安庁は、英語で言えばコースト・ウォッチャーズに当たり、アメリカでは沿岸警備隊という立派な軍隊だ。

 加えて、大日本帝国陸海軍、特に陸軍のお家芸だった「兵站の軽視」が、もろに出ている。食糧は農林水産省、衛生は厚生労働省が主管であるが、九大臣にさえ入れてもらっていない。法務大臣の名が無いのも奇怪です。そして今後も、四大臣会合の委員に、連立与党の所属議員が選ばれる可能性は、まず無いような予感がする。


 アメリカの同類組織の邦訳名称と全く同じというのもご愛敬で、国連の安全保障理事会常任理事国も同様であるが、大国にとっての安全保障とは、戦争もしくは、それと似た行為をすることだ。それと似た行為というのは、テロなら宣戦布告も要らないし、国際社会も説得しやすいので、気に入らない相手はテロリストにして、実際にやることは軍が出て行って戦争だ。

 この会議は、改正草案の緊急事態条項とセットになっているに違いない。緊急事態なら国会決議は後回しで良いし、衆参両院で過半数なら後回しする必要もない。そもそも誰が緊急事態・重要事項と決めるのかといえば、総理を措いて他にない。その存在自体が緊急事態にならないことを切に祈る。



(おわり)



上野動物園コウノトリ  (2018年10月13日撮影)