おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

総理と内閣の権限を増やしたいです  (第1257回)

 憲法第72条は内閣総理大臣の仕事、また、次の第73条は内閣の仕事を、それぞれ定めている。いまの憲法は以下のとおり。

【現行憲法

第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を決定すること。


 まず、第72条について、さっそく比較対象のため、改正草案の第72条を転載します。

【改正草案】

内閣総理大臣の職務)
第七十二条 内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して、議案を国会に提出し、並びに一般国務及び外交関係について国会に報告する。3 内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。

 項の数がいきなり三倍に増えている。もっとも、第1項と第2項は、いまの憲法の条文を独立させたものではある。ただし、こっそり「総合調整」を行うと加筆されている。総合調整って何だ。

 組織間調整は、日本の企業やお役所でも重要な業務です。一般に、会社では秘書室とか総務部などがこれを担当し、省庁では官房と呼ぶはずだ。根回し担当部局のことでしょう。そういう部署が必要なのはわかる。


 これは、内閣官房の業務であり、その筆頭が官房長官であるというのが私の理解です。したがって、これを書きたいのなら、第73条に置くべきではないか。これでは官房長官は、ただのスポークスマンになってしまわないか。総理自ら、調整をやるのか。やっているのでしょうね、きっと。

 自由民主党は、かねてより派閥の集合体であることは自他ともに認めるところであり、最近ぎくしゃくしているような報道もあるが、その派閥の力学という理解不能のメカニズムで日本の政治は動いてきたらしい。

 このため、調整型の政治家が有力者になりやすいと言われてきた。たぶん小泉さんは例外だろう。しかし、これは党内事情であって、総裁はこれに忙しいかもしれないが、総理の職務として憲法に規定することではない。


 次。第3項の「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。」について。不要である。国防軍も国防大臣なりの下に置くのである限り、内閣の一員であって、わざわざ別項を立てる必要は全くない。第一、危なくて仕方がない。

 大日本帝国憲法の「統帥権」について、わが「はてなキーワード」の解説をみよう。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%FD%BF%E3%B8%A2

 本来の意味は軍隊の最高指揮権。
 大日本帝国憲法においては、天皇の大権として、政府からも議会からも独立したものとされていた。
 このため「統帥権干犯問題」を発生させ、日本の進路を歪めるほどの事態に発展した。


 第1項案の「行政各部」から、これを切り離すということは、三権分立の外側に置きたいと勘ぐられても仕方あるまい。聞くところ、明治憲法は当初そのような意図はなく、「天皇の大権」を下々から隔離するための規定だったらしいが、うまい利用方法を軍部が「発明」したおかげで、国の進路がゆがんだのだ。

 文中の「統括」という言葉の意味も、「統帥」同様、良く分からない。解釈の余地が多々あって、便利そうである。おそらく数多くの組織で、統括本部とか統括事業部とかいう名の中二階を設けてしまい、指揮命令から役割分担まで混乱しているのではあるまいか。やめておこう。


 第73条は、現行の憲法条文と、改正草案のそれは殆ど同じなので、長文全てを転載するのはやめるが、いまの第5項「予算を作成して国会に提出すること。」が、改正草案では「予算案及び法律案を作成して国会に提出すること。 」になっている。法律案が加わった。

 予算案も法律案の一つだから、現状では憲法において、唯一内閣の職務として明記されている法律案の作成・提出が予算案だ。ところが、改正草案では、全ての(としか読みようがない)法律案が対象になっている。半歩譲っても、主要業務ということだろう。


 これは間違っている。たとえ現状の法律案が、7割ほどが内閣の(つまり官僚機構の)産物であったとしても、法律案を作成し国会に提示するのは、本来、立法府の構成員である国会議員の仕事である。だから議員立法の規定などは無い。私はとんでもない勘違いをしているのだろうか?

 改正草案の発想は、第9条における自衛隊追記の課題も同様で、しばしば現政権の好きな「現状追認」という改憲の必要性(というより安全性か)を説く際に使われるものだ。最近思うのだが、現状のままで(はっきりいえば慣習法で)、なんとか上手くいっているのであれば、憲法に書き加える必要はない。

 時代が変わることにより、慣習法が変化・消滅する機会を奪うだけだ。それに、第41条で国会が「国の唯一の立法機関」と言い切っているではないか。「立法」という仕事が、多数決と同じと妄信している方々にとって、確かに法案の作成や審議は、立法ではないのだろう。

 ひとのことばかり、言えない。国民主権とその責務を、どこかに預けっぱなしにしてきた挙句が、この有り様です。内閣を支持する理由の首位が、最近いつも「他にないから」というのは、私も「ではどうする」と言われたら困るが、「何も考えていないが、何となく」と、ほぼ同義ではありませんか。




(おわり)




唐突ですが元気を出したい。




















































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