おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

「おじさん」的思考  (第1909回)

 今回のタイトルは、このブログにぴったりの書籍名。著者は内田樹氏。内田さんの本は、たぶん最初に「下流志向」を読んだと思う。私は教育関係の仕事をしていないが、社会保障に関わっているので、社会問題全般に関心があって手に取った。その直後に、新聞に載った雑誌の広告に、「内田樹という病理」という凄い論文名を見た。私にはとても正論と思えない投稿記事を載せ続けている奇妙な雑誌だ。長いこと売れているんだな。

 内田先生は、この下流志向とか、空語とか街場とか、あまり日常的でない言葉を駆使するし、私が何となく苦手とするフランス好きのお方だし、武芸の話になると全く付いていけない。それでも読む価値がある。かつての小林秀雄の「考えるヒント」と同様、考えるヒントになるからだ。


 彼の憲法に関する著作では、「憲法の『空語』を満たすために」が良く読まれていると思う。講演録なので比較的、読みやすいし、憲法を知り、憲法を考えないといけない時代になったので(これは、憲法改竄政党の図らざる功績だ)、ぜひともそちらを読んでほしい。

 そう言いつつ別の本をご案内するのは、この題名では憲法と関係がありそうもないし、角川文庫の売り文句にも、平松洋子さんの解説にも憲法という言葉は出てこないし、2002年発行だから憲法改正草案よりも古い。だが序盤に、「『護憲派』とは違う憲法九条擁護論」という短い章があり、一つの特徴として、刑法の殺人罪との比較検討がある。


 今回は概要を書くのを控える。下手にまとめた挙句、誰かに「そんな程度のことなら、読むのは止めよう」と思われると困るので、思わせ振りのままにしておきます。でも一言。戦争は、合法的な人殺しだ。チャプリンのいうように敵なら大勢、始末した方が褒められる。だがもっと肝心な点は、権力者や高級軍人は、合法的に自国民も殺せる。先の大戦で多くの日本国民は被害者になったが、原告にもなれず、裁判も自分たちでできなかった。

 刑法には、私が子供のころ西部劇やギャング映画でお馴染みだった正当防衛という概念があるし、追加で大学のとき教わった緊急避難条項、カルネアデスの定理もある。自衛が認められれば、減刑または無罪になるかもしれない。ただし、肩を押されたので線路に突き落としたというような「目には目を」を越えてしまったら、たぶん裁判所も怒る。ただでは済まない。


 自衛すなわち国防という名目で、この「ただでは済まない」レベルまで、平気で戦争をやるのがアメリカ合衆国であることは、誰も異論がないと思う。二大政党のどちらを選んでも好戦的であり(太平洋戦争時は、共和党政権ではない)、つまり当面はこの精神体質は変わりそうもない。

 これを書いている現在、アメリカはエルサレムに大使館を移し、調子に乗ったイスラエルが敵はイランだといいながら、直接対決を避けてシリアを空爆している。訳が分からん。抗議したパレスチナでも、大勢亡くなっている。我が国は「アメリカとは一体の同盟国」だそうで、「集団的自衛権」まで持ってしまった以上、アメリカやイスラエルの敵にとって、日本は敵です。そういうことを考える契機になり得る本。




(おわり)




近くの公園に飛来したコブハクチョウ
(2018年4月30日撮影)