おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

国会議員は公務員か  (第1338回)

 という疑問をふと持ったので、取りあえずインターネットで検索してみたら、現時点でこういう記事が出てくる。憲法上は、国会議員も「公務員」であるといっても間違いないでしょう。しかし、常にそのように解釈されるというわけではありません。」と書いてある。
http://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column058.htm

 丁寧な論調だし、勉強にもなったので非難する気は全くないが、しかし国会議員の憲法上・法律上の位置づけが確定していないという論文が、ほかならぬ参議院の公式サイトに載っていること自体が、私のような普通の人間にとっては、びっくりの事態である。


 どうやら国家公務員を大別して一般職と特別職にわけるとき、国会議員は特別職に含まれるとされているらしい。大雑把にいえば、一般職とは私たちが官僚とかお役人とかいう言葉でイメージする霞ヶ関のみなさんが典型であり、特別職はそうではない偉い感じの人たち。例えば、大臣、裁判官、大使。一般職とは、そのほとんどの給料を人事院が決める権限と責任を持っている。
http://www.jinji.go.jp/saiyo/syokai/syurui.pdf

 この人事院のサイトにも、国会議員の記載はない。ただし、国家公務員法の第2条第3項にある特別職の「九  就任について選挙によることを必要とし、あるいは国会の両院又は一院の議決又は同意によることを必要とする職員」に相当するはずだ。と言う訳で今回のタイトルにある質問に対する答えは「はい」。


 国政選挙に出馬するときは、公務員試験を受けてもらい、その合格を当選の条件にはできないにしても、点数を公表したらどうだろう...。冗談のつもりだったが、ここで話題にしている改正草案を読むにつけ、憲法改正の動議をする議員の何割かは、司法試験の合格者でなければいけないという条件を付しても、決して不当ではないように思えてきた。

 さて、国会議員が公務員かどうか悩んだのは、今回と次回において対象とする憲法の第15条から第17条までの三か条に、「公務員」という言葉が出てくるので、範囲を明確にしておきたかったからだ。

 なお、他の条項にも出てくる。「第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」。この文面からしても、公務員でしょうね。尊重し擁護する義務を負っています。


 順番を少し前後させて、第15条は後回しにする。というのは、第16条と第17条は、私の読み方が間違っていなければ文章表現の変更だけで、意味は同じだと思う(願う)からだ。でも大事な内容であることに変わりはないので、現行憲法を引用する。

 第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

 第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、
      国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。


 第16条は、例えば立法は国民の代表たる国会しか行うことができないと憲法に明記されているが、新しい法律を作ってほしいとか、変な改正は止めてほしいといったお願いは、平和にやるなら誰でもできるという意味だ。

 ここでの主語は「何人」であって、日本国民に限らない。企業も任意団体も外国人もできる。「大臣、辞めてくださいませ」と平和裏になら言える。そういうことをしても、それを理由とした差別は受けない。

 なお、「請願」(英語で、petition)とは、お堅い言葉だが、平身低頭する必要はなく、例えば特許の申請も請願だし、おなじみ陳情もこれだ。次の第17条は、メディアの報道によく出てくる「国を相手どって」民事訴訟を起こす権利を憲法が認めている。通常は法務大臣が被告になるそうだ。


 第15条を後回しにしたのは、内容の重要さもさることなから、改正草案の変更箇所も少なくないからだ。以下は、かなり個人的な理解、意見が入りますので、予めお断りいたします。

  【現行憲法

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
二 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
三 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
四 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。


  【改正草案】

(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
第十五条 公務員を選定し、及び罷免することは、主権の存する国民の権利である。
二 全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
三 公務員の選定を選挙により行う場合は、日本国籍を有する成年者による普通選挙の方法による。
四 選挙における投票の秘密は、侵されない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。


 まず改正草案は、現行一行目の第1項にある「国民固有」の「固有」を消したいらしい。英語版の「inalienable」の訳語であり、辞書には「奪うことができない」、「生まれながらの」と言った意味が載っている重い形容詞だ。国政選挙はもちろん、地方自治法のリコール制度も、最高裁の国民審査も、多分これに基づいている。これを奪うことができるようになるのだろうか。

 そのかわり、「主権の存する」と入れましたから、という弁解は通らず、これは第3項の改正案において、「成年者」の前に置かれた「日本国籍を有する」と同じ意味・動機に違いない。外国人参政権という高度に政治的な難題を、ここで決着させようということだろう。


 私の場合、二つの外国(アメリカとカンボジア)に合計8年ほど長期駐在し、その間、日本国籍のままだったから、もちろん滞在国の選挙権は無かった。ついでにいうと最後の一年を除き、まだ在外投票の制度がなくて、日本の選挙権もなかった。そのアメリカには、永住の制度として、お馴染みの通称「グリーンカード」がある。

 グリーンカードは、ビザの一種であり、国籍ではないし、選挙権もない。私が居た頃のカリフォルニアは、あまりに中南米からの不法入国者が多く(私の職場のそばなど、スペイン語のほうが良く聞こえたくらい)、ただし「壁を作れ。金はメキシコが払え」などというヤクザはおらず、まとめて国籍を与え、そのかわり税金を払わせた。


 ただし、グリーンカードは、当時「取得まで5年。国籍までさらに5年が相場」と言われていたように、私の理解では大半が帰化のためのワン・ステップであり、平たく言えば、我慢しつつ「順番待ち」の状態であった。そんな経験があるので、「国籍がないなら選挙権もない」という事態は、私にとっては違和感がない。

 しかし、日本の「特別永住者」はそれとは性格が異なり、だからこそ、その参政権が政争の材料に使われている。これは歴史的経緯のある大問題なので、小欄で政治的な意見を述べることは到底、無理なのだが、それにしても何だか釈然としない。


 要するに、条件は変わらないのにダメ押しをしたいというのは、ここで反対派の息の根を止めておこうということだろうし、更に意地悪く言えば、外国人参政権の反対者は、感情的右翼が多い感じがするので、人気取りのような印象を与えてしまう。そして改憲の議論が、票取り合戦になるのなら、私は反対する。第9条も、そうなんだよな...。野党も野党です。ずっと議論がデジタルのまま。

 それだけなら(つまり国内問題で済めば)まだ良いが、こういうのは、海外において敵対する者の目には、敵対的態度そのものに写るはず。もしもこれ以上、短気な外国を怒らせて何のメリットがあるのだろう。どうして、こんなに好戦的なのだろうか。「憲法は国の未来、理想の姿を語るものです。」と総理は語る。くれぐれも、現代の惨状を語りませんように。

 それにしても私は、北おのミサイルを「方向音痴」と言ってきたのだが、どうやら、数をこなして腕を上げて来た模様。あのお金は、どこから吸い上げているのだ。なお、第15条の第2項と第4項は、次回に触れます。




(おわり)






朝顔、今年も頑張った。
(2016年8月26日撮影)






































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