おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ゲリマンダーたち  (第1920回)

 本年3月5日の自民党党大会で方向性が定まったとされる「改憲4項目」のうち、まだ一つ、私の苦手な選挙区の条文案が残っている(第47条)。

 該当の条項を、①現憲法②2012年の憲法改正草案、この③「改憲4項目」の順番で並べてみる。まず、一目瞭然で、どんどん長くなっている。原因不明ながら、思うに、かつて憲法改正の条件を緩和しようとして、小林節さんらから「裏口入学のごとし」と斬り捨てられてしまったため、それなら硬質憲法に書き入れてしまえば、僅差の政権交代くらいでは変わらないという戦術であろうか。



【①いまの憲法

第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。


【②2012年 改正草案】

(選挙に関する事項)
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律で定める。この場合においては、各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない。


【③2018年 改憲4項目】

参院選「合区」解消】

 第47条

 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。

 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。


 ②2012年の改正草案の段階から入って来て、③では「法律で定める」より優先事項になっているらしい、「総合的に勘案」するという官庁や大企業が好きな言葉は、それが必要で適切な場合がたくさんあることを私は否定しない。これからも、否定しません。したがって論点は、ここで、それをやって良いかどうかだ。

 私自身も少なからず使って来たので、ある程度は事情がわかるのだが、「総合的に勘案」しますというときは、その結果について、客観的な説明ができないか(実は社長の一存とか)、説明したくないか、相手を馬鹿にしているかの、いずれかまたは全てであろう。そもそも、誰が「総合的に勘案」するのだろうか。

 意地悪く読めば、②の段階では、先に法定主義が謳われているから、勘案する主体は国会であると推測できる。でも③はどうだろう。先に勘案して、あとから議決だ。これの意味するところは、「総合的に勘案」する主語は、国会ではなく、与党ということなのだろう。有力な反論が出てくることを心から期待する。


 さらに、③においては既に先般の国会でひと騒動あったように、念願の「合区解消」でフライング的な行為があった。誰の声が一番大きかったか、私なりに感じ取ったし、いつまでも覚えているだろう。いつになったら日本は、オラんとこの代議士先生に陳情にいくべ、という古生代から脱却できるのだろう。私と同様に、海外の滞在が長かったり、転勤族を長い間やってみえた方なら、あっさり同意して下さると思う。国会議員なんだぞ。

 これに対する反撃は、きっとアメリカの上院の選挙制度を盾にとって攻めてくるだろうな。上院議員は各州から二人づつ選出される。一票の格差も何もない世界。だが、逆に言えば「総合的に勘案」する余地も全くない。日本も、こうしたら、凄いことになるだろう。地方重視の牙城のようになる。ぜひ検討願いたい。


 しかし、これは日本とアメリカの国家の成り立ちが全く異なるため、比較・参考の対象にはならない。アメリカに住んでみて驚いたのは、州によって重要な法律が異なることだった。今ではネットですぐ調べられるだろうが、例えば、日本の消費税にあたる売上税は、州により税率が異なるし、あるいは、死刑制度がある州と、無い州がある。

 ホワイトハウスは小さい。そもそも首都ワシントンDCが小さい。これは、外国相手の外交・軍事・通商など、相手国が当方も国家でないと相手にしてくれない分野の機能を国家中枢に残しているからであって、内政の大半は、各州に任せているからだ。州兵という昔の日本の鎮台さんみたいなものまである。内乱鎮圧も州の仕事なのだ。


 私がいたカリフォルニア州には、州知事(行政府)、州議会(立法府)はもちろん、州の最高裁判所(司法府)まである。三権分立になっているのだ。だから、アメリカの各州は、上院においては独立国扱いになっている。よく似た例は、国連で、どんなに小さい国だろうと、加盟国は一票ずつを有している。

 現行の参議院は、比例代表制もあるし、どうみても都道府県代表ではない。三権分立どころか、知事と議会の癒着が問題化することも少なくない。多数決というのは、少数意見を圧殺するという事実において、民主主義の最終的で最悪の手段であると思っています。それなのに、というか、そのせいで味方の議員を増やそうとする言動ばかりが目に付くようになり、何とかチルドレンが跳梁跋扈するようになった。しかも全般に、耐用年数が短いようです。



(おわり)




夜明けは来るか。これまでのところ、毎日来ているが。
(2018年8月23日撮影)







































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