おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

何の過半数か  (第1380回)

 先日、議長は「憲法第7条により解散」と言っていたが、国事行為の行動主体は天皇であり、これは陛下のみが口にできる言葉なのではあるまいか。まあ、こういうふうに、ずっといい加減にやってきたのだろうな。放置した責任はこちらにある。

 自由も希望も見込みがたい選挙に臨まなくてはならない。報道によれば、手を組まれたら改憲が現実味を増すらしい。この一通りの勉強を終えたら、第9条に戻らないといけないな。さて今回は、改正条項の国民投票について。改正草案の対応箇所も並べてみる。


【現行憲法

第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

【改正草案】

第百条 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。


 今なお私には判然としないのだが、現行の条文最後にある「その過半数の賛成」の、「その」とは何の代名詞なのか。「国民の」過半数だという意見を聞いたことがある。実際、文脈や字面からすると、そう読むのが自然のようにも思う。改正草案もこのままでは不安なので、「有効投票」と加筆したのだろう。

 現憲法下、日本では国民投票の実績が無い。だから、どのくらいの投票率になるのか見当がつかない。最近の国政選挙並みだとすると、国民の過半数の賛成投票を得るのは不可能だ。


 その国政選挙にしろ地方選その他にしろ、現実には改正草案が書き足したように「有効投票」の数で決まる。無効と棄権は、白紙委任ですらなく、勘定に入らない。

 外堀はもう埋まっている。ずっと前にも話題にした「日本国憲法の改正手続に関する法律」には、すでに憲法解釈が明記されている。関連条文を二つ。


第三章 国民投票の効果
第百二十六条 国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が第九十八条第二項に規定する投票総数の二分の一を超えた場合は、当該憲法改正について日本国憲法第九十六条第一項の国民の承認があったものとする。

第九十八条 (第一項は省略)
二 中央選挙管理会は、前項又は第百三十五条第六項後段の報告を受けたときは、直ちに憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数、投票総数(憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数をいう。)並びに憲法改正案に対する賛成の投票の数が当該投票総数の二分の一を超える旨又は超えない旨を官報で告示するとともに、総務大臣を通じ内閣総理大臣に通知しなければならない。


 上記条文中の「投票総数(憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数をいう。)」の過半数の賛成で改正される。改憲勢力は、きっと投票数が下がりそうな日付を選び抜いてくるだろう。

 いきなり脱線。スペインには言葉も文化も違う地域があるということを知ったのは、バルセロナ・オリンピックのときだったと思う。カタルーニャ地方といい、今は本土内の自治区になっている。特別扱いだ。



 このカタルーニャ自治区で、先般、独立を問う住民投票が行われた。賛成90%の高率だったが、スペイン政府は「憲法違反」と断定しており、この先まだまだ揉めそうだ。


 気になったのは、投票率が42%という日本並みの低さだったこと。スコットランド独立の住民投票は、ほぼ100%だった。意外と低いなと感じたイギリスのEU離脱国民投票でさえ7割を超えたから、それと比べてもずっと低い。憲法違反取締で警察が出動した。そういう混乱や暴力沙汰の危険を避けたかった人もいるのだろうか。

 どういう騒ぎが起きるか分からないので、必要な最低投票数を設定する制度を設けるべきであるという主張がある。これは筋が通っていると思うが、その最低数をどう定めるのか難しそうだし、そもそも今の雰囲気では過半数与党が認めるはずがない。幸い、スペインのように憲法違反の争いにはならないと思うので、国民主権を育てたいなら投票に行くしかない。




(おわり)













せめて空は晴れてほしい  (2017年9月19日)






おまけ 赤とんぼの後ろ姿 (同日撮影)
































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