おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

三角ベース (20世紀少年 第792回)

 上巻の34ページ目でババの店を立ち去る際、ケロヨンはモンちゃんとコンチに「三角ベース、やんない?」と誘っている。モンちゃんは「ボールないぜ」と言ったが、「どっかに落ちてるよ」という答えが返ってきた。実際、かつては探せばどこかに野球やテニスのボールが転がっていたものだ。モンちゃん、あとでヴァーチャル・アトラクションで会おう。シー・ユー・レイター・アリゲーター

 三角ベースも絶滅危惧種のスポーツというか遊び。大人が昔を懐かしがってやるのもよいが、そもそもは子供の特権である。われわれの小学校時代は、近所の子供たちで三角ベースをやった。球場はわれわれの自宅前を走る未舗装の道路。


 かろうじて乗用車がすれちがうことができるくらいの幅しかない。ここで野球の軟式ボールとバットを使ってやると、そこら中のガラス窓を割るおそれがある。実際、何枚も割った。このため通常はテニスの軟球を使っていた。これならバットもグローブも要らない。打つのも取るのも素手で済む。野球のボールはもっぱら二人しかいないときのキャッチボールで使う。

 彼らのように3人でやる場合、投手と打者は不可欠なので、残りの一人は野手か捕手か走者となる。キャッチャーがいなくて大丈夫かと心配するのは素人である。なに、ピッチャーが投げた球をすべて打てばよい。球審も不要だ。空振りした場合は、バッターが責任を取って拾いに行くだけです。


 3人か4人ぐらいの人数だと、安打が続いた場合、フルベースになると(念のため、一塁と二塁しかない)、ランナーが足りなくなる。このようなケースでは、一塁に走者がいると見なすという想定の下でゲームを続行する。私たちはこれを幽霊ランナーと呼んでいた。ベースはそこいらに転がっている石とか板切れとか、現地調達で充分。ホームベースのみ地面に靴の先で描く。

 テニスボールを用いる利点の一つは、ランナーが次のベースに走っているとき、そこを守る者がいないときが多いので、ランナーにボールをぶつけてもアウトという、ドッヂボール的なルールの導入が可能となる。狭い球場だから子供の腕でも結構、当たるんだ。


 まあ一事が万事、こんな調子であった。私が昭和ノスタルジーをからかう一方で、昭和時代のことをたくさん書くのは、あんな不潔で不便な時代が好きだったからではなくて、自分が子供のころ幸せだったからだ。病弱だったし貧乏だったが、そんな奴ほかにも大勢いた。遊び相手には事欠かず、遊び道具は自分らで工夫すれば何だってできた。

 その後、実家が引っ越し、私も故郷を離れたので、当時の仲間との連絡は途絶えている。先日その町に行ってみたが、近所の表札は半分以上、代わっていた。特に仲の良かった3人のうち、一人はまだ暮らしているようだが、別の一人は一家で夜逃げして行方不明、もう一人は大学の理系に進み、実験室の大爆発で死んだ。ケンヂたちは恵まれているほうだと思う。


 さて、ケロヨンたちの次に一人でジジババにやってきたのはドンキーであった。真剣な表情でお菓子を見ている。その意を決したような顔を見ながら、ババは「こいつが犯人か」と推理をしている。ドンキーはそんなのお構いなしで、「糸引きアメの糸が十五本...」と数え終わった。そしてババを見ながら、「コーラ味の当たる確率は6.6666...%」と宣言した。

 ババは訳が分からず「はあ?」と蝶野刑事のような反応を示したのみ。コーラ味は一つしかないのだろう。「1÷15」は0.06666...になる。ドンキーは理科の成績だけは良かったと確かモンちゃんが言っていたが、算数だってちゃんとできるのだ。


 ドンキーはそう言い残しただけで何も買わず(というか買えないのだろう)、ビュンと走り去ってしまった。彼はこのまま物語からも去ってしまう。さらば、ドンキー。ババは「あいつでもないか」と語っている。何を根拠にそう結論付けたのだろうな。ドンキーはいつも、こんなだったのかもしれない。君はまだ知らないが、後ほど地球を救うことになるんだぜ。

 下校中なら皆で一斉に来るだろう。入れ代わり立ち代わりなのは夏休みだからだ。次に来たのは「おーい、アイス食おうぜ」と振り向いて後続に声を掛けているヨシツネと、「まっ、どうせ当たりは出ないけどね」と相変わらずクールなオッチョ。ババは「十円」と告げた後で「こいつらか...」と容疑者の絞り込みを進めている。そして一人、近寄ってこない子がいた。つづく。



(この稿おわり)





良い子はこういう所を選んで野球をする。 (2013年9月14日撮影)








雲は湧き 光あふれて 天高く 純白の玉 今日ぞ飛ぶ  
                            
栄冠は君に輝く














































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