おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

一個足りない (20世紀少年 第791回)

 2年ほど前、津波の被害を受けてから半年ほどたった南三陸町に行く途中、東北新幹線を下車して仙台駅に降り立ちました。駅舎はまだ復旧工事中だったような覚えがある。テレビの中継で観た仙台平野と空港の被災の様子は忘れられない。

 駅の建物の中に楽天イーグルスのグッズを打っている小さなショップがあって、ファンでもないのに何となく嬉しくなって勝手に店の写真を撮ってきた。あのころはまだ弱かった。優勝おめでとう。田中の直球の凄さよ。


 上巻31ページ。映画のポスターはジジババの店の横にある板壁に貼られている。たぶん店舗の隣にババの住まいがあるのだろう。そのポスターの右上の端っこが剥がれたのに気が付いて、ババは「バン」と音を立てて上から叩き、無事、貼りなおして「ふん」と威張っている。

 ずっと前にも書いた覚えがあるが、おそらくジジババの店は壁にポスターを貼ることにより、国際劇場から広告宣伝料をもらっていたと思われる。そうでなければ貼りなおしたりはしまい。それにしてもケンヂの回想によれば「子供達の社交場」だった店のはずなのに、こんなの貼っていいのだろうか。今のPTAは許すまいな。


 第1集によると、おそらく「さかさくらげ」の後で上映された「べんぜつふじん」のポスターも左上からはがれ、それに触発されたヨシツネがはがし、「はい」と手渡されたケンヂが丸めて抱え、マルオを含めて3人で走り去っている。ジジババで盗難の被害に遭ったのはバッヂだけではなかったのだ。でもカンカラに入れられたおかげで、1997年まで残った。

 店に戻ったババはバッヂの数が減ったことに気付いて、番町皿屋敷のように「バッヂが一個足りない」と言った。彼女はいつもの席に座り、「犯人は誰だ」とにらみをきかせ始めている。ところで、先月だったか書いたことだが、この日か少し前、最初に「あたり」の紙を持ってきた少年が来店したとき、宇宙特捜隊(宇宙で何を捜すのだろう)のバッヂは3つあった。


 その少年は駄菓子入れのガラス蓋の上に当たり券を置いて、バッヂを一つ持ち去った。これはやはり礼儀に反する行いであり、当人が一方的にケンヂのみ悪の大魔王呼ばわりするのは良くない。ともあれ、不運にも近くに居合わせたケンヂは電信柱の陰から暗い目で一部始終を見ていた。おそらくは先客の独り言から、ババが店を空けているのも知ってしまった。

 外れ券を持ったケンヂがバッヂを持ち去ったあと、残ったのは一つだけだった。ババが気付いたときも、バッヂは一つだけ。数が合わないと思う。二つ減ったはずだ。理由その1、ババが勘違いしただけ。理由その2、ババはすでに当たり券を見つけていたので、誰かが勝手に券とバッヂを交換したのを知っていた。後者であれば、のちにババが少年の言い分を全く聞いてやらなかったのは少し厳し過ぎるように思う。


 店に近寄ってきた最初の容疑者はコンチとモンちゃんであった。気軽に「ジジババ、寄ってかねえ?」、「おっ、いーね」とやってきた二人であったが、コンチはババに睨みつけられて「今日のババァ、いつもより怖いよ」とモンちゃんにしがみついている。モンちゃんはババァ呼ばわりが伝わっていないか心配中。

 気を取り直してコンチが注文したのは糸引きアメ。「五円」とババ。十円玉を差し出すコンチ。それを見て「貸しといて」とモンちゃんはちゃっかりしている。どうやらいつも通りの買い物姿だったようで、二人へのババの疑いは晴れたらしい。


 別の少年が来て、ババの目が光る。コンチの報告を聞いて、ババァが怖いのはいつものことだとケロヨンは高笑い。「耳遠いんだから」と臆せず酢イカを買うケロヨンも犯人候補のリストから外れたらしい。仮に問題発言が聞こえていたとしても、ババの関心事は別のところにあり、そちらのほうがはるかに重要なことなのだ。

 ちなみに糸引きアメとは、アメの先に長めの糸が出て入て、引っ張り出したアメを買わないといけないというギャンブル性のある駄菓子。これについては後ほどドンキーの話も聞こう。私はあまりお酢が好きではないので、酢イカは食べた覚えがない。なおさら今の子は食べないだろうなあー、こういうの。


 酢イカのアクセントは西瓜とは異なり、関東で電車やバスに乗るとき使うカードと同じ。今やタクシーでも使える。ババの酢イカは十五円であった。ケロヨンはモンちゃんよりお小遣いをたくさんもらっているらしい。蕎麦屋も繁盛しているようだ。まさか息子の代で店をたたむとは親父さんも思わなかっただろう。ましてアメリカに移転するとは。

 最後に「さかさくらげ」の出演女優は、南条朱美と藤しのぶ。前者は多分、二条朱実から拝借した芸名か。団地シリーズの名優のひとり。後者は見当がつかないが、案外、藤純子寺島しのぶの母娘から採ったものかもしれない。夫であり父でもある尾上菊五郎さんが雑誌のインタビューで、二人とも平気で家の中を裸で歩くと語っておられた。役得。




(この稿おわり)





葛飾北斎 「百物語さらやしき」(右)





悪の... (2013年9月17日撮影)





仙台駅にて (2011年10月4日撮影)
























































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