第1巻の最終話のタイトルは「ユキジ」。この回は、3人の重要な人物が登場する。一人目が元・史上最強の少女、ユキジ。次に、ユキジの親友の市原弁護士。そして、万丈目も姿を現す。
彼らにより、いったん材料が尽きたかにみえたケンヂの”ともだち”に関する調査が、再び動き出すことになる。また、これまで接点のなかったケンヂたちと、ともだち側との、直接の関わりも顕在化することになる。
特に、市原弁護士は、この物語において探偵やレポーターを兼ねたような役という側面があって、一挙に説明をしたい物事があるときに出てきて、端的にユキジや読者に解説してくれる便利なキャラクター設定でもある。
第10話「ユキジ」は193ページから、二人の女性が名前の紹介もなく出てきて、酒を飲んでいるシーンから始まる。最初のコマのヤキトリの絵、特にネギマとレバーとツクネの上手さは尋常ではない。二人はすでに十本以上、食べている。
ここで二人はお互い職業上の悩みを語るのだが、まずは弁護士が、訳のわからない団体に家族が巻き込まれてしまった人たちが、弁護団を作ろうとしているという話題を出す。訳が分からないというのは、具体的にはまず、何を目的としているのかが分からないそうだ。
新興宗教なのか、自己啓発セミナーなのか、マルチ商法なのか、全く分からない。それに、団体の名前すら分からず、その中心人物も「ともだち」と呼ばれているという情報しかない。
市原弁護士の手元にあるのは、団体のシンボルマークである、ともだちマークだけなのだ。そんな実態のつかめない連中が、武道館を満員にしているのだという。
ところが、話相手のユキジは、どうやら相当、酔っ払っている様子で、しかも、ほとんど弁護士の話を聴いておらず、ともだちマークに目もくれない。ユキジは、弁護士が誤解しているような麻薬Gメンではなく、空港の税関職員なのだが、どうやら麻薬調査役の犬が、どんでもない「バカ犬」であることに憤慨していらっしゃるご様子である。
仕事がうまくいかず、男運にも見放されている様子で、この時点のユジキは表情からしても言動からしても、なかり鬱屈をため込んでいる様子。ただの飲んだくれ、酒に飲まれている女に過ぎない。
しかし、このユキジがこれから幾多の試練を乗り越えながら、美しく歳を重ねてゆくのを見るのも、この物語の楽しみの一つなのだ。そして、多くの男たちが正義のためだけではなく、ユキジのためにも戦っていることも分かってくる。
最後に、市原弁護士に再度ともだちマークを見せられたユキジは、嘔吐寸前の泥酔状態にありながら、ケンヂとは質の異なる記憶力を持っているようで、どこか見覚えがある様子を見せている。夏の少年たちに、間もなく強力な助っ人が加わることになる。
(この稿おわり)
東シナ海にて、釣り。 (2011年7月14日撮影)
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