おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

幼なじみの思い出は (20世紀少年 第654回)

 
 第20集の40ページ目。ユキジ達がいる部屋は瓦葺の木造家屋だ。それまで市原弁護士の報告を中腰で聴いていたカンナは、立ち上がってキリコとの面談を勧めるユキジたちに反論を始めた。万丈目は、いつ何が起きてもおかしくないと言ったのだと語る。時間の問題で”ともだち”は火星移住計画を実行に移すとも言ったらしい。これは確かに少なくとも形式的には始まっているのを弁護士が確認している。

 火星に移住するというのは、その他の人類の滅亡とセットになっているというのが、万丈目やカンナの理解であるようだ。そうすると更に大規模にウィルスがばかまられる日も近いと覚悟せねばなるまい。それを阻止する方法は、万丈目すら手に余ると尻込みしている現状、”ともだち”に近付くことができる誰かが、早急に正当防衛の強硬手段を採る必要があるというのがカンナの主張だ。


 ヨシツネはカンナに「気持ちはわかるが、ここは...」と大人の意見を吐こうとしたが、気配を感じて振り向いている。見ればオッチョも立ち上がっているではないか。「カンナのいう通りなんだ。俺達には時間がない」とオッチョは言う。この二人は、急ごしらえのシェルターで怯えている万丈目の血走った目を見ているのだ。他のメンバーとは切迫感に差があるのも当然であろう。

 この展開にあわてたヨシツネは「冷静になれ」と言ったが、オッチョは「冷静だよ」と冷静に言った。かつて成田空港で「落ち着いて聞け」とケンヂに言われたとき、ユキジは自分が何と言ったか覚えているだろうか。とにかくヨシツネは食い下がり、万丈目はペテン師だと一般論で説き伏せようとしている。ヨシツネはオッチョも一緒になってカンナを止めてくれると思っていたらしい。話が違ってきたのだ。

 オッチョはそれに同意しつつも、今度ばかりは万丈目も真実を語っていると自説を展開している。うん、私もそう思うな。更にオッチョは、”ともだち”が暴走の果てに崩壊しつつあり、最後のボタンを押そうとしていると述べる。カンナも今こそ決着をつけないと人類は滅亡すると危機感を示す。


 ヨシツネは母さんに会ってからでも遅くないと説得を重ね、ユキジが「私もそう思う」と言った。キリコに会えば気が変わると考えているのだろうか。少なくともユキジは違うだろう。それだったら道場はたたむまい。そしてヨシツネは、ノコノコと”ともだち”の本丸に押しかけても中に入れるわけがないと主張した。これは正論に思える。

 だが、どういうわけか”ともだち”に限らず長髪も万丈目も同様だが、彼らは妙に”ケンヂ一派”に会いたがる。血の大みそかの夜、友民党の本部も開けっ放しの立ち入り自由であった。一緒に遊びたいらしい。ところで、ヨシツネに対するカンナとオッチョの反論があまり論理的ではない。


 カンナは自分は入れる、入れると思うと言うだけだ。オッチョに至っては、「奴は俺達の幼馴染だ」という理由だけで自分も入れるという。カンナは娘だから会えると思っているのだろうか。万丈目は彼らに対し、今の”ともだち”はフクベエではないと断言しているのだ。この部分だけは信じていないということか? 多分そうだろう。後の彼女の驚き振りがそれを示している。

 では、オッチョはどうか。彼は万丈目に対し、フクベエが確かに自分の目の前で射殺されたと語っているのだが、その前に自分でも信じられないが奴は生き延びた旨、神様たちに話している。実は最後まで私にははっきりしないのだが、オッチョはすり替わったはずの今の”ともだち”を誰だと思っていたのだろうか。


 この検討は恒例の先延ばしで誤魔化すとして、それにしてもこの時点でオッチョは「幼なじみ」と表現しており、ということはフクベエがまだ生きていると考えているか、入れ替わった後任も幼なじみと考えているかのいずれかである。後者の場合、後任がもう一人のナショナル・キッドだとしても、彼にせよフクベエにせよ幼いころに落合君とお互い「馴染んでいた」とも思えないのだが...。

 まあ、ここはクラスメートとか近所の子という程度のことか。クラス会でフクベエはケンヂに、秘密基地の解散式には間に合ったと言った。解散式には9名の戦士だけではなくて、合計11人が立ち会っている。フクベエの言っていることが本当なら(この前提条件はかなり苦しいが)、彼や、もしかするともう一人のナショナル・キッドも解散式に参列したのか? 基地の仲間か?


 そんな私の悩みをよそに、ユキジは「しかたないわね」と言って立ち上がった。カンナの賛同者は起立しないといけないらしい。これには市原弁護士もびっくりだ。21世紀のユキジが戦闘の最前線に立ったのは新宿の教会と、新巻鮭の男を追跡したときだけだろう。今回はそれらにまさる旅順港封鎖作戦のような決死隊なのだ。

 取り残されたヨシツネは、冤罪で囚われている人々を救出する事業と、いつも必死に働いてくれる部下を見捨てるわけにはいかないと苦悶する。すでに決意している三人は無言のまま。僕は僕はと繰り返した挙句、ヨシツネは立った。「僕も行く」と隊長は言った。広瀬のように一人で行けば、部下を巻き添えにせずに済む。相手は第20集の表紙絵にあるとおり、地球をもてあそぶ男だ。



(この稿おわり)





紅梅 (2013年3月9日撮影)



 

 幼なじみの思い出は 青いレモンの味がする
 閉じるまぶたのその裏に 幼い姿の君と僕     

                     「おさななじみ」







































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