おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

あの小麦粉の人     (20世紀少年 第98回)

 第3巻第8話のタイトルは「空港爆破」。ホームレスの神様が悪夢から目覚めて飛び起き、「こりゃあ、いよいよドカンと来るぞ。」とつぶやいたころ、成田の新東京国際空港到着ロビーでは、ベンチに腰かけたユキジが、麻薬犬ブルー・スリー号と顔を見合わせて、ため息をついている。

 この犬が麻薬を感知したため、クラス会をキャンセルしてまでユキジが決行した大捕り物の結果、取り押さえた入国者が持参していたものは、ユキジの上司である監視官によると、何と小麦粉なのであった。上官に固く口止めされたユキジは、大失態の犬コロに「良いところにもらわれていくといいね」と早くも犬の将来を心配している。


 ユキジは偶然、窓の外を通りかかる「あの小麦粉の人」を見つけて、改めてお詫びをするのだが、相手すなわち万丈目は「だから言ってるでしょ、もういいって。」と、てんでそっけない。そこに偶然ケンヂがタクシーで空港前に到着し、運転手に「釣り? 釣り銭なんていらない」と応じている姿が二人の目に入る。

 ハリウッド映画のヒーローであれば、ここはすぐさま美女を救いに走り出す場面であるが、日本の正義の味方であるケンヂが、まず助けようとしたのはタクシーの運転手であった。

 いわく、「とにかく、運転手さんも早くここから逃げろ。もたもたしてちゃダメだ。この空港はもうすぐ...」と一所懸命です。そのまま立ち去ったほうが、早く発車できそうにも思うが...。


 これに対してユキジは、「何やってんの、あんた」とか、「落ち着いてないのはあんたでしょ」とか、相変わらず、つれない。ユキジはまだ戦いの当事者ではないのだ。

 ところが急展開、ブルー・スリー号が再び万丈目にかみついたのであった。はだけたワイシャツの下に覗いているのは、例のともだちマークのついたTシャツだからケンヂもびっくりだ。


 さて、ユキジがかぶっている制帽に書かれている「CANINE TEAM」は「犬の担当チーム」というような意味で、日本税関のオフィシャル・サイトに載っている麻薬探知犬に適した種類の写真からして、青3号はリトリーバーのようだな。

 麻薬探知犬は、当然ながら、ありとあらゆる違法薬物に反応するわけではない。訓練されたドラッグに対してのみ行動する。
http://www.customs.go.jp/mizugiwa/maken/maken.htm


 万丈目からは、この犬が訓練を受けた薬物の匂いがしたはずなのだ。だいたい、手提げ鞄に小麦粉を詰めて海外から運び込むなんて有り得ないもんね。

 しかし、ケンヂは先入観があるから、万丈目のバッグを指して「バクダンだ」と叫んで引き渡しを要求する。万丈目は意に介さず、「ケンヂくんはこの中身をバクダンだといい、ユキジ君は怪しい粉だと言う。さあ、中身はどっちかな?」と余裕しゃくしゃく。驕れるもの久しからずという歴史の教訓を知らないな。


 驕りの万丈目はお迎えのベンツに乗り込みながら、「ユキジ君が正解。でも上司に報告するのはやめておいたほうがいい。このご時世、誰も信じないほうがいい。」と言われて、ユキジは上官の顔を思い浮かべている。のちの展開からして、ユキジは上司には伝えなかったのだろう。報告していたら、チョーさんの二の舞になったかもしれない。

 さらに万丈目は、「君らが子供の頃、ここ、成田空港はあったかね?」という悪魔の質問を投げかけ、さらには、ケンヂに「みんな、迎えにいっているころだと思うんだ。”ともだち”の愛娘、カンナちゃんを」という悪魔のお知らせまで伝えている。


 この、手の内をすっかり見せてしまっている万丈目の余裕は、どこから来るのだろうか。もはや政府、警察などの内部にすっかり浸透した”ともだち”一派としては、この程度の情報がケンヂたちに漏れようと構わないということか? 

 このあと現に、ケンヂとユキジはコンビニに急行して、カンナを救っているのだから、万丈目は意図的にフライングをしでかして遊んだのか?どうも、そうではないような気がするな。

 カンナを強奪するのが最終目標だとしたら、このあとで出てくるような、頼りない若者ばかりでコンビニを襲わせるようなことはするまい。しかも、この日、フクベエはクラス会、万丈目は海外からの帰国日であり、指導者層と連絡が取りづらい夜である。では何のためのコンビニ屋襲撃だったのか、次回に考えます。



(この稿おわり)



沖縄のオオハマボウの花。これを咲かせる木の幹は、久米島紬の灰色の染料に用いられる。
(2011年7月16日撮影)