おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

分を弁える  (第1362回)

 最初に、前々回から前回にかけての話題で、書き忘れたことがありましたので追記。前々回、「分限」という言葉について書いたものを再掲します。

 「分限」という言葉が、改正草案の追加事項として出てくる。人事院のサイトに、分限制度の概要説明がありました。民間で言えば、降格、休職、解雇にあたります。ただし制裁の処分ではなく、能力や勤怠に関するもの。
http://www.jinji.go.jp/saiyo/jinji_top/ninmen/2-bungen.pdf

 つまり、裁判官に限らず国家公務員は、身分保障という羨ましい法制度があり、人事院の決まりに引っ掛からなければ、降任・休職・免職はない。こういう身分の変更(出世以外)を分限というらしいが、懲戒とは異なると明記されている。すなわち、悪事を働かない限り、左遷もクビもない。第78条は、裁判官に限っての身分保障ということになるという理解です。

 
 次に前回、転記した改正草案の第79条第5項の案も再掲します。「最高裁判所の裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合を除き、減額できない。」

 このうち、「分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合を除き」を追記している。一般の社会人の感覚としては当然のことで、わざわざ国民は憲法に書くか。ここに書くとしたら、国会議員のところにも書かなくてはいけない。どちらがよりハイ・リスクのグループなのか、我々は今や、よーく知っている。さて次は、第80条と第81条。


【現行憲法

第八十条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。


【改正草案】

下級裁判所の裁判官)
第八十条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣が任命する。その裁判官は、法律の定める任期を限って任命され、再任されることができる。ただし、法律の定める年齢に達した時には、退官する。
2 前条第五項の規定は、下級裁判所の裁判官の報酬について準用する。

(法令審査権と最高裁判所
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する最終的な上訴審裁判所である。


 第80条第2項を比較すると、下級裁判所の裁判官も、最高裁と同様、「分限」に言及している。例えば、勤務態度が悪いと言及されるおそれがある。この国では裁判官が法令に触れるようなことは滅多にないと思う。

 やかましいのは外野で、これは与野党も官民も問わないが、裁判官が判決文に通常の判決とは異なる意見を加筆すると、自分が気に入らないときに限り、裁判所・裁判官には立法の権限がないのに越権だと騒ぐ人たちが、ときどき出る。「分限」を弁えていないという主張だろう。


 これはどうなのだろうか。司法府に立法権がないことは憲法に明記されているが、一事件に沿った法律家の意見を書くのは、絶対にいけないことなのだろうか。これが駄目なら、国会議員も唯一の立法府である国会の場ではないところでは、法律に関する意見を述べてはいけない。静かでいい。

 行政府にも似たようなことが言える。行政訴訟において、国は平気で上訴するが、あれは下級審の判決が「間違っている」という明確な意思表示以外の何物でもない。行政に司法権はない。やれやれ。





(おわり)



谷中のムクドリ  (2017年6月6日撮影)












































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