おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

基本  (第1370回)

 これから第七章の「地方自治」に入ります。私の情報不足かもしれないが、地方自治に携わっている方々からの本件に関する意見というものを、あまり聞かない。これはもしかしたら当方が東京に住んでいるからであって、地方の議会や報道では話題になっているかもしれません。

 この第七章における改正草案は、何を言いたいのかよく分からず、且つ饒舌という手に負えない状態だ。しかも第六章までは、条文の番号を合わせていたのだが、ここに至って「条」も「項」も、ほとんど倍増と言ってよいほど増やそうとしており、このため以降の構成は、中身も含め改正というより、好き放題になっている。


 憲法の各章は総論的な条項に始まり、各論的な条項が続く形態をとっている。第七章も、現在そういう仕組みになっているのだが、改正草案はその冒頭に新規の条項を加えてきた。これがまた言語明瞭・意味不明の代表選手のような呪文となっている。さっそく怖いもの見たさで拝見しましょう。

【現行憲法

第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

【改正草案】

地方自治の本旨
第九十二条 地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
二 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。

地方自治体の種類、国及び地方自治体の協力等)
第九十三条 地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括する広域地方自治体とすることを基本とし、その種類は、法律で定める。
二 地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。
三 国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない。


 取りあえず、言いたいことが四つある。(1)上記のとおり、条文をずらしてまで、「(地方自治の本誌)第92条新案」を出している。同条の第1項は最初に読んだとき、トートロジーではないかと思った。だが、違う。そう思う理由は、後の(3)に譲ります。

 新たな第92条の設定は、いまの憲法が上記のとおり、特に細かい定めなく「地方自治の本旨」という言葉を使っているので、誰かの都合のよいように書き加えた疑惑があるが、それよりも抽象的すぎて訳が分からない。だから、私が行間を読んで、決めつけることにしました。


 (2)第2項も変だ。現実に私たちが地方自治体から受ける権利と負担する義務は、応分にという意味であれば、例えば上下水道はそのとおりだが、介護行政や母子家庭の支援や公共交通といったものは、負担者層と受益者層がはっきり異なる。

 まだしも国民年金や健康保険ならば、「次は自分の番かもしれない」という期待だけは公平なものかもしれないが(これも若い世代には受け入れがたくなっている)、逆に、誰もが平等に権利と義務の組み合わせを持つのではない、というところが地方行政の重要な点だと考える。しかも、また「義務」を押し付けてくるとは。


 次に、(3)今の憲法には無い「基本」という言葉が、赤字で示したように三か所も出てくる。「基本」の対義語は、「応用」であろう。場合に応じて好きに出来る。誰が? 全体の調子からして、地方自治体でも地域住民でもあるまい。

 特に、「住民の参画が基本」というのは、いかなる趣旨か。応用編においては、参画しないこともあるということだろうか。第93条にも「基本」が出てくる。現行の地方自治法によると、「基礎」は市町村で、「広域」は都道府県なのだが、そうとも明記していないし、しかも「基本」だから確定事項でもない。


 (4)そしてこの書き振りによると、どうやら他にも法律で定めたい「種類」があるらしい。私に思いつくのは道州制の議論だが、その長所短所に詳しくないけれども、一般に、こういう中二階的な組織を作って挟み込む魂胆は、民間も同じく、追加のポストと予算が欲しいからで、たいてい失敗する。

 目的がその逆の場合、すなわち道州を導入して、都道府県を廃止するのであれば、財政の効率化といういつもの大義名分が登場するのだろうけれども、平成の大合併とやらで、山間部の小集落等への行政がどれほど貧弱になったか、私は家族親戚の範囲内だけでも、うんざりするほどの実例を知っている。


 第93項の追加案である第三項は、「国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない。」とあるが、当たり前だし、物事の理(ことわり)として、結局は下部組織が上位組織の言うことを、きかなければならない。

 ちょうどこの8月、広島と長崎の式典のスピーチを聞いたり読んだりする機会があったが、こんな条項を定めた日には、あんな言い合いをしていると違憲になってしまわないか心配です。地方自治体も意見が割れるかもしれないが、全体に改正草案は強者の発想だろう。中央集権を志向している印象が強い。中選挙区制に戻してね。




(おわり)





かつては村で、今は市になっているところにて。
(2017年7月22日撮影)