また取り留めのない感想文に戻ります。映画「20世紀少年」において、ニタニ神父は、死んで生き返った人間は、史上、一人しかいませんと仰っている。神父さんのご発言であるから、これはイエス様の復活を指しているに違いない。
以下、いつものようにキリスト教を楽しく話題にするので、クリスチャンの方々はご不快になるかもしれないからご注意ください。死んで生き返った人間は、本当にイエス氏だけなのか。
ボブ・ディランが歌にしたルービン・カーターを主役に据えた映画「ザ・ハリケーン」では、デンゼル・ワシントンがレズラ少年に、「俺達の名前は、両方とも聖書に出てくる」と語る場面がある。
欧米人の氏名は(特にファーストとミドルのネームは)、ふんだんに聖書に出てくるので、発言の事実関係自体は珍しいことでもなんでもない。ただし、レズラの名は、斃れても蘇る者の代名詞であるらしい。日本語では一般に、ラザロと表記される。
たぶん私は若いころ、この名を中丸明「絵画で読む聖書」で知ったのだと思う。「ラザロの復活」という絵があるのだ。出典は「ヨハネの福音書」で、当家の聖書によると、イエスは「私を信じる者はたとい死んでも生きる。」と、先ずは脅威的な一般論で教え諭し、さらに「ラザロよ、出てきなさい。」と呼んだところ、ひょっこり墓から出てきた。
私にとって四冊ある福音書のうち、一番読みやすいのが「ルカ」です。「マタイ」と「マルコ」は、その古拙が魅力であるが、昔こんなことがありましたという世界むかし話の域を出ず、「ヨハネ」は上記のごとく完成度の高い宗教書で信者向け。この点、「ルカ」は著者がインテリだけあって整然としている。
この「ルカの福音書」には、間違いなく「ヨハネ」と同一人物と思われるラザロが出てくるのだが、復活しない。死んだままである。多くの長生き宗教と同様、キリスト教の経典もかくのごとき相互矛盾ぐらいは意に介さない凄みがある。
ルカの名も、欧米人の氏名によく使われる。女性形では「アイ・ラブ・ルーシー」が典型だろう。ルーク・スカイウォーカーの命名者が、ジョージ・ルーカスであるならば、ご自身の姓を意識したはずだ。空を歩む者というのも格好いいな。
「テルマエ・ロマエ」の主人公、時を駆ける風呂屋のルシウスの名も、語源は同じだろう。ルシウスの活躍期はハドリアヌスの時代だから、ちょうど新約聖書が纏まりつつある頃の人で、ルカと同じ国の人だ。
カリフォルニアで働いていたころ、言語療法士に個人教師になってもらって、英語の発音を直してもらったことがあるのだが、なかなか合格点をもらえなかった単語の一つに、「thermos」(魔法瓶)がある。温泉のテルマエも、同じ語源を持つはずだ。サーモスタットも、体温計メーカーも同様だろう。
ルシウスが単行本の第一巻の第一話で流された先は銭湯の男湯で、脱衣場に「スターウォーズ」の第一作(エピソードⅣ)の大きなポスターが貼ってある。私の高校生のころに飛ばされてきたらしい。まだ古い時代の銭湯が残っていた。
風呂場の客は落語でお馴染みの江戸っ子言葉であり、外を走る車は足立ナンバーなので、拙宅の近所に出現したらしい。彼は排気ガスで胸を悪くしている。コイズミ凶子も嘆いていたように、高度成長のころの大気汚染や水質汚濁は、地獄の沙汰だった。
そういえば新入社員のころ、残業や飲み会で遅くなると独身寮の風呂に間に合わないため、足立区の首都、北千住の駅で降り、近くの銭湯で一浴びしていったものだ。扇風機が首を振っていたのを思い出す。
あらゆるカルチャー・ショックにめげることなく、ルシウスが平たい顔族との時空を超えた国際文化交流に貢献し得たのは、彼のあくなき探求心と、食い意地のおかげであろう。なお、彼が「なんと美しい黄色」と感動していた洗面器は、ケロリン桶という。映画では琴欧州の懸賞に、その名がみえる。温泉案内役の上戸彩も熱演であった。
最後に、ルカがインテリと書いたのは、彼が医者だったという通説を踏まえてのものです。だから、聖路加病院は「せいるかびょういん」と読む。先日、日野原先生がお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
(つづく)
温泉とくれば、フルーツ牛乳だ
(2017年7月22日、岐阜うすずみ温泉にて撮影)
Follow her down to a bridge by a fountain...
”Lucy in the Sky with Diamonds” The Beatles
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