おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

レナちゃん (20世紀少年 第855回)

 早く高須の話題、終わらせたいな。ユキジも同様らしく、犯人は”ともだち”の残党なのかと本題に素早く鋭く切り込んでいる。高須の返事は「まだ”ともだち”の教えを信じて、守っている連中がいるのよ」というものだった。「守っている?」と訊き返すユキジ。

 これに対し高須は、反陽子ばくだんのリモコンをねと応じた。ユキジは驚きの表情を浮かべている。巨大ロボットのリモコンなら、”ともだち”の死と共に壊れたか没収されたはずである。ところがどっこい、「爆弾のリモコン」が別途あるのだという。


 少し話を先に飛ばすと、残っていたリモコンは”ともだち”が後生大事に抱えていたものと同じロボットのリモコンだったようだが、結局は自動に切り替えると爆弾のスイッチを入れる動きをするように設定されていたらしいから同じことなのだろう。

 少なくとも高須は反陽子ばくだんの威力を信じているようで、そんなことしたら今度こそ本当に人類は滅亡すると真面目な顔でユキジに語る。しかし、それに続けて「残党」はそのときが来たらロケットで火星に逃げるつもりだそうで、「どうかしてるわ。あんなロケット、飛びもしないのに」と言った。


 表面的には残党を小馬鹿にした表現だが、実質的には”ともだち”の内情暴露である。一緒に遊んでいたのを白状したようなものだ。すでに権力の座から滑り落ちた高須は過去の仲間を売っているようなものだ。しかし、反陽子爆弾が本物で本当に爆発したら、高須先生どこへ逃げても無駄なのでは...?

 ユキジはたぶん高須の身の振り方などどうでもよくて、リモコンはどこかと追及するのだが高須は知らないと否定した。そして、ユキジをここに呼びつけた理由をようやく明らかにする。「ただ、連中は私を狙っている」と述べ、正確を期して「この子をね」とお腹の中の子が残党のターゲットであることを示す。カンナの腹違いの弟妹か。それとも種は違うのか...。


 しかし高須ごと子供をさらって、どうしようというのか。多くの新興宗教と同様、教主を世襲させるおつもりか。お釈迦様もイエス様もこの点、立派であったし弟子にも恵まれたと言ってよかろう。日本人はとにかく血縁に弱いのだ。いまだにアットホームな雰囲気の職場とか、我が社のDNAとか自慢して喜んでおられる。

 騒がしいのは二世三世の本人たちというよりも、その周囲が落ち着かない。取り巻きは先代の権力基盤が消え失せると困るのだな。政界に大企業、芸能界に至るまで戸籍がモノを言う。あれは税金を取り漏らさないように作った搾取リストなんだが。

 この時代に血筋の重視とは、妙なところで旧約聖書と似ている。マスコミや学者は地縁血縁と一緒くたに表現するが、日本社会で地縁がほとんど機能しないことは田舎者が東京で働いているとよくわかる。


 高須は自分を狙う者を見たと窓の外を指さす。向かい側の建物の窓、看護婦の格好をしていたけど見間違いじゃないと言い張る。そのとき連合軍が入ってきて、ユキジのお騒がせ仲間が病院と路上という妙な組み合わせの場所で、人質を取って暴れているとの急報をもたらし、ついては説得に協力願いたいとの命令である。

 どうせまたカンナだろう。ユキジはやむなくこれに応じて立ち上がったが、意外にも高須が震えているのを見た。自分の命は惜しいのと訊くほど、ユキジは狭量ではない。どこかほかに移すよう交渉すると請負い、その代りと言っては何だが、犯人を教えてと詰め寄った。高須曰く、それは敷島教授の娘であった。


 第2話の最後にその人相書きが描かれているが、いかにも指名手配中という感じで人相が実に悪い。最初に出てきたころは、まだ少女の面影が残っていて少しは可愛かったしグラビア・デビューも果たしたそうなのだが、悪い男に引っかかったのが運の尽き。というより本性から、こういう女だったのだろう。

 ここでの看護婦姿は病院に出入りするための変装なのであるが、彼女にとっては職歴からして慣れた制服とクリップボードである。第4集に出てきた。その当時の所属先は「ファッションヘルス パパイア天国」という店で、客の呼び込みはウサギが担当。彼女の芸名はレナちゃんで、「うれうれ看護婦コース」のご注文があると看護師に早変わりする仕事であった。せめて、そのまま働いていた方がまだしも幸せだったろうに。


 ユキジはその足で仲間の説得に向かい、同じころレナちゃんは腹ごしらえを始める。そのころケンヂはバーチャル・アトラクションに引き続き滞在中であるが、しかし意に反して妙な場所に瞬間移動した。

 ガコオオンという効果音が流れる娯楽施設、両隣のレーンにはテン・ピンがきちんと並んでいる。どちらが勝つか分からねえが、もうすぐ終わるとかつて神様は語っていたものだった。



(この稿おわり)





21世紀もロックの時代にしよう (2014年2月5日、ああ上野駅






 For the loser now will be later to win.
 For the times they are a-changin'.

               ”The Times They Are A-Changin' ”  Bob Dylan


 盛者必衰と申します
 諸行無常と申します






 I'm a loser and I'm not what I appear to be.

              ”I am a loser”  The Beatles


 負けたのは俺だ
 俺はみんなが思うような人間じゃない










本日はご近所も花盛り。




















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